目次
ボーディングスクールとは富裕層の子息を対象にした全寮制の高校です。
(→前記事「ハイスクールに行かないアメリカの富裕層たち。上流階級の学校とは?」)
アメリカにはプロテスタント聖公会のボーディングスクールが中心となるSt.Grottlesexという学校群があります。
聖公会(Episcopal Church/エピスコパル・チャーチ)は古い時代の移民の家系に信者が多い宗派です。富裕層に最も多い宗派という調査結果も出ており、アメリカ国内でも貴族的とよばれがちです。
(関連記事
「アメリカ人がどの社会階層なのか、ざっくり知る方法 富裕層の傾向は?」
「聖公会 そして日本人と交わらないアメリカ上流階級の正体」)
アメリカで最も貴族的な5校 St.Grottlesex
聖公会に属するアメリカの30校のボーディングスクールのうち、27校は東海岸側にあります。
そしてニューイングランドにある代表格の4校と、最も新しい無宗派のミドルセックス校をあわせた5校を、アメリカではSt. Grottlesexといいます。
アメリカで最も貴族的とされているボーディングスクール群です。
- セント・ジョージ校 St. George(聖公会)
- セント・マーク校 St. Mark(聖公会)
- セント・ポール校 St. Paul(聖公会)
- グロトン校 Groton(聖公会)
- ミドルセックス校 Middlesex(宗派なし。最も新しい)
点線部分をあわせてSt. Grottlesexになります。日本のMARCHや関関同立のような名称です。スペルにtが1つ増えてるのは発音しやすくするためでしょうか。
日本人に縁がないゆえか、検索してもSt. Grottlesexはカタカナ表記がみつかりません。このままアルファベットで表記していきます(^^;)
前記事で取り上げたテン・スクール(10 school)が一流大学合格に特化した秀才向けの学校群なら、St. Grottlesexは格式の高い貴族的な学校群という位置づけです。
日本のどこかの私立校に例えたいところですが、これらの学校と、日本の富裕層向け私立は本質が大きく違うため、誤解を招きかねないのでやめておきます。
聖公会カラーの5校 St.Grottlesexの特徴
Wishing everyone a great weekend @StPaulsSchoolNH @spsalums pic.twitter.com/gR3SWsvBjK
— St. Paul's School (@spsadmissions) June 8, 2018
聖公会の学校が多くを占める5校 St.Grottlesexの特徴は以下になります。
WASPが行く学校
WASPといいう言葉は20世紀のアメリカ全盛期を支えた支配層の特徴である白人(white)、アングロサクソン(Anglo Saxon)、プロテスタント(Protestant)の略です。
しかし、実際はこの3点を満たすだけではWASPとはいえないと過去記事「上級国民WASPとは何か?ヒラリーさんとブッシュ氏 ケネディ家の差」で取り上げました。
WASPであることを満たす条件のひとつが教育です。大学ならビッグ3(ハーバード、イェール、プリンストン)もしくは東海岸の大学を出ていること。ボーディングスクールも、このSt.Grottlesexや、それと同等の学校を出ていることがWASPの条件とされていました。
上流階級のための排他的な学校
聖公会のリベラル化の影響か、現在は有色人や留学生もSt. Grottlesexに入りやすくなっています。聖公会の学校でも、信者以外が入学可能です。しかし、もともとは上流階級のためだけの排他的な学校でした。
多額の寄付をする余裕のある卒業生が多いためか、学校施設は非常に贅沢だといわれています。
しかしSt. Grottlesexはただ富裕層の子女を甘やかす学校というわけではありません。セント・ポール校はアメリカを代表する進学校10校「テン・スクール」の一角でもあります。
生徒数が少なめ
セント・ポール校のみ500人を超えますが、それ以外の4校は350人ぐらいです。
ボーディングスクールの中では小規模なほうです。
その分、教師や生徒間の距離が近く、教師の目が行き届きやすい学校といえるでしょう。
イギリス式の教育
英語版wikiによるとSt.Grottlesexはアメリカにありながら、イギリスの名門パブリックスクールのスタイルをとっている学校です。
聖公会がイギリス国教会から枝分かれした歴史のためかもしれません。
なぜ聖公会は若者の教育に力を入れてきたのか
グロトン校
アメリカで宗教教育を行うボーディングスクールのうち、最も多いのはカトリックの32校です。
この多さは、プロテスタントが主流派のアメリカにおいて、カトリックの独自の信仰を守る意味合いもあるでしょう。
アメリカ人口の22%はカトリック教徒です。
一方、聖公会の信者は人口の1%強です。にもかわらず30校もあるのですから、その多さがよくわかります。
聖公会と並んでアメリカで古い歴史を持つ宗派に、スコットランド発祥の長老派があります。聖公会に次いで富裕層が多い調査結果がでている宗派です。
(関連記事:「アメリカ人がどの社会階層なのか、ざっくり知る方法 富裕層の傾向は?」)
しかし聖公会のボーディングスクール30校に対し、長老派のそれはたった1校です。
長老派以外の他のプロテスタント宗派のボーディングスクールも、みな5校未満です。
聖公会は圧倒的な多さです。
なぜ聖公会は全寮制の学校をそれほど多く作ってまで、十代の教育に力を入れてきたのでしょう?
イギリスが生んだ教育方法と、その効果
「BS世界のドキュメンタリー ヒトラーユーゲント ナチス青少年団」によると、20世紀はじめのヨーロッパでは、カトリック教会、共産党、そしてナチスによる18歳以下の少年たちの組織がありました。それらはレクリエーションやキャンプを通して、少年たちの教化を行っていました。
まだ人格の固まってない少年たちに、親元から離した状態で、組織のイデオロギーや価値観を叩き込むわけです。
こうした方式の発祥元がイギリスのボーイスカウトでした。
ボーディングスクールの発祥元もイギリスですね。やはり10代の子供を親元から離し、組織が管理、教育するものです。
その結果、どのような人物が育つと思いますか?
・・・ナチスがイギリス発祥の方式で育てた若者の組織ヒトラー・ユーゲントは、ナチスが終わる時まで、ヒトラーに最も忠実な組織だったそうです。
CIA職員はどこから来たのか?
セント・ジョージ校
アメリカという国家にとって、St.Grottlesexのような学校が育てる「貴族的なアメリカ人」は、テン・スクールが育てるビジネスエリートとは違う価値を持つ人達です。
国際的に活躍するビジネスリーダーや学者はいますが、国際的な公爵、伯爵というのは存在しませんね。
「貴族」というのは国家に属するものです。
彼ら「貴族的なアメリカ人」は、戦後の日本の教育で育ったわたしたちには、理解しがたい存在かもしれません。
2019年9月のBBC日本版の記事「9/11テロ、CIAが白人ばかりでなければ防げた?」が以前ネット上で話題になりました。
CIA職員の多くがWASPであるため、組織の多様性の欠如から犯罪を防げなかったという記事です。
上の日本語記事にはありませんが、BBCの原文では、CIAが現在のCIA職員自身に近い人物を採用してしまいがちなことが、WASPが多い原因としています。
つまりCIAにはWASPがたくさんいて、彼らが同じWASPを採用し続けてきたというわけです。
なぜCIAは多様性が乏しくなるというリスクを冒しても、WASPを多く採用し続けたのでしょう?
「貴族の資格」
CIAのエージェントは一般が知り得ないアメリカの真実を知っています。
大統領が知る機密情報も、もともとはCIAが潜入捜査してもたらしたものです。日本でいえば、大統領が大臣でCIA職員は官僚ですね。情報に直接携わるCIAは場合によっては、大統領に知らせず機密を抱え込むことすらできます。任期も大統領のそれよりずっと長いです。
だからこそ、CIA職員は絶対に、アメリカという国家に忠実な人物でなくてはなりません。
もし今の日本人が「スイスのような評判の良い先進国に移住して大富豪として何不自由なく暮らせる」といった条件を提示されたら、大多数はその道を選ぶのではないでしょうか?特に若い方は、そうでしょう。
でも、そんな人は、もしアメリカに生まれてもCIA職員にはなれませんね。
良い条件を提示されたら簡単に母国を裏切る人を工作員にはできません。
また英語版wikiによるとベトナム戦争の前、CIAはベトナム国民を騙していると承知でハノイに原爆が落ちるとデマを広める工作を行っています。
(関連記事:「ベトナム戦争はキリスト教のせい?カトリックに染まった南ベトナム」
今の日本に、正義を踏み越えて良心にそむいても、日本の国益のために動くという人は、どのぐらいいるでしょう?
貴族の資格というのは、贅沢な暮らしをしているとか、社会的地位があるとかではなく、そういうものなのでしょう。
もしかしたら戦後生まれの日本人に貴族はいないかもしれませんね。
※外部リンク「入会は極めて困難、最も排他的な9つの大学秘密社交クラブ」
アメリカ、イギリスの古い家系の上流階級についての興味深い記事です
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なぜアメリカの真似をする国は失敗するのか?理由は2種類の白人たち
https://pittsburghquarterly.com/pq-people-opinion/pq-history/item/360-the-wasp-ascendancy.html
https://www.boardingschoolreview.com/blog/the-st-grottlesex-schools
https://en.wikipedia.org/wiki/Saint_Grottlesex