今から40年近く前、かの有名な学研の子供向け宅配誌でブラジル日系人にからむ童話を読んだことがあります。
双子の姉妹の片方がブラジルの親戚のところに養子になる。親同士で昔からそういう約束だった。ゆえに姉妹は悲しみながらも納得して別々の国で生きることになるという内容でした。
ブラジルは地球上で日本の真逆の位置にある。だから日本が昼間のときブラジルは夜なのだという知識を、それを読んだとき知りました。
80年代、秋田書店の少女漫画雑誌プリンセスに連載されていた作品「悪魔の花嫁」にも、片方がブラジルに養子に行った双子の姉妹をテーマにした話があります。姉妹が再会したところ、ブラジルに行った娘の方が羽振りがよくて日本側が嫉妬し、彼女を殺して入れ替わろうとするというストーリーでした。
・・・このように昭和の頃は創作にもちらほら出てきたほど、ブラジルに住む日系人の存在は常識でした。
芥川賞を最初に受賞した石川達三さんの作品もブラジルに移民する日本人をテーマにしたものでした。
日系人とは、外国に帰化した日本人および、その子孫を指します。
日本で生まれた日本人でも外国の国籍をとると日系人になるんですね。
現在の日本マスコミはハワイや北米大陸、ヨーロッパに移住している日本人/日系人を中心に取り上げることが多いです。ですが、今でも世界でもっとも日本人の血を引く民が多い外国は、ブラジルです。
その数は、二番目に多いアメリカよりずっと多く、
ブラジル160万人に対し、アメリカ140万人
アメリカもブラジル同様、戦前に移住した日本人の多い国ですね。ハワイの日系人の多さも話題になります。
アメリカに次ぐ3位は桁が違うほど差が開いて、中国の12.7万人。続いてフィリピンの12万人。
・・・ブラジルの日系人の数は、2位アメリカと3位中国の数を合わせたより上なんですね。
日系人の多いラテンアメリカの国はブラジルだけではありません。
ほかに日系人の数が多い国をならべると
・ペルー: 10.3万人
(参考:ドイツ 8万人)
・アルゼンチン:6.5万人
(参考:イギリス 6.3万人)
・メキシコ:3.5万人
・ボリビア:1.4万人
・パラグアイ:7千人
(参考:スイス 約4千人)
・ウルグアイ:3,5千人
・コロンビア:3千人
この情報のソースは英語版wikiのJapanese_diaspora(日系人)というページにある、日系人が多い国ランキング上位35位までの表です。
このランキング、実際に開くと、オーストラリア、カナダ、イギリス、タイ、フランスなど、テレビや雑誌でもよく目にする、いかにも日本人に人気がありそうな国名が並んでいます。
そうしたお馴染みの国々にまじって、唐突にこれらラテンアメリカの国々の名前が出てくるわけです。過去の歴史の証拠である彼らが、わたしたちの周りでさりげなくタブーになっていることを思い知らされます。
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現在、ラテンアメリカの日系人の存在が私たちの前にクローズアップされることは、あまりありません。
大多数の日本人もラテンアメリカにあまり関心がありません。各国の地図が頭にちゃんと浮かぶ人のほうが少ないかもしれません。
フジモリ氏がペルーの大統領になったときは、さすがに日本の誇りとして多くのニュースでとりあげられました。しかし、彼が不名誉な失脚をした後は、最初から存在しなかったかのようにぱったり止みました。
フジモリ氏の娘が大統領戦に出馬したときも大きなニュースになりましたが、父のフジモリ氏の過去の汚点には殆ど触れられませんでした。そしてこのニュースもまた、彼女が落選したら、ぱたりとやみました。
これ以外でラテンアメリカの日系人の存在が話題になるのは、低賃金労働者の話題がでたときと、彼らが日本で犯罪を犯したとき、そして皇族が中南米を訪問したときぐらいでしょうか。
ラテンアメリカの日系人は主に敗戦前に移住した人やその子孫であるため、皇室への強い崇敬を持つ人が多いそうです。なので皇族が訪問すると非常に歓迎されるとか。
それだけでなく、もとは皇族だった明治天皇の孫が敗戦後、ブラジルに帰化し、ほんの2年ほど前にブラジルでなくなったりもしています。
(参考記事:「ブラジルでひっそりと逝った「明治天皇の孫」2015年4月30日 週刊新潮 )
しかし、南米の日系人社会と皇室の関係が日本国内で詳しく報道されることは、あまりありませんね。
敗戦前、ブラジルの日系人たちは、じぶんたちの子供を日本人コミュニティの中につくった学校に行かせていました。そして、そこで日本の言葉や教育勅語を教えていました。
(参考記事:「NHK-BS1スペシャルで知る戦前、戦後のブラジル移民の現実」)
調査によると、ブラジルにいた日系人の87%が日本語で書かれた新聞を読むことができたそうです。
当時、識字率の低かったブラジルでは、たとえ日本語でも、何らかの字が読めるのはすごいことだったとされています。
養蚕を行うブラジル移民たち
ブラジルはポルトガルの元植民地であり、白人と混血してるメスティーソの多い国です。英語版wikiによると、黄色人である日系人は長い間、ブラジル人たちから自国民と同化すべきでない民として扱われていたそうです。ブラジル当局は日本文化が社会に影響を与えることを避けてきました。
しかし、1970年代以降の日本の経済発展の恩恵を受けて、日系人はブラジルで優位な地位を得て、認められるようになったといいます。
日系人がブラジル社会に受け入れられるにつれ、混血も増えていきます。日系二世では6%しかなかった他の人種との混血率は、三世では42%、四世では61%にのぼるとされています。
宗教もすでに6割の人が、一般的なブラジル人たちと同じカトリックに替えているそうです。
90年代の人手不足を補うため、日本の地を踏んだ南米生まれの日系人の多さはよく知られています。群馬県にあるブラジル日系人コミュニティはテレビでもよくとりあげられますね。
しかし、日本の経済衰退とともに、帰国するブラジル日系人は後を絶ちません。震災のあった2011年時で、ピーク時の2/3以下まで減少しているそうです。
経済的なことだけでなく、本国ブラジルでは日系人は中流以上の扱いを受けるのに、日本では"デカセギ"として下に見られやすいことなども影響しているといわれています。
日本人は日本にいる日系ブラジル人に対して、ブラジルで育ってしまったために日本人ならではの礼節や常識がなっていないとみなすことが少なくないですね。
素行の悪さや犯罪にかかわる場面では、なおさらです。
でも敗戦後しばらくまでブラジル日系人は日系人だけでかたまり、生まれた子供たちに日本人らしい教育を行っていた。教育勅語までおしえていた・・・。
白人の血を重んじるブラジルにおいて、アジア人として排斥されていたぶん、そうせざるをえなかったからです。
しかし1970年代以降の本国日本の経済繁栄がブラジル社会に日系人を受け入れさせた。それによって、日系人たちもブラジル式にかわっていった・・・
日系人に「日本流」を失わせ、本国の日本人から白い目で見られるようになってしまった原因を作ったものが、戦後日本の経済繁栄だったとしたら、皮肉なことですね。
https://www.amazon.co.jp/Strangers-Ethnic-Homeland-Transnational-Perspective/dp/0231128398
https://en.wikipedia.org/wiki/Race_and_ethnicity_in_Brazil
http://www.fsight.jp/29764
htts://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_diaspora
https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_Brazilians
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