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ラテンアメリカは日本の未来か?
中南米は明治期のイギリス人大使パークスが「日本の未来の姿」と予言した地であります。
(過去記事:「明治期のイギリス大使が日本に向けた不吉な予言」)
しかし、私たち日本人の大多数は中南米にあまり関心を寄せていません。特に中米は多くの方にとって、情報の乏しい地ではないかと思います。キューバしか知らないという方も多いのではないでしょうか?
世界で最もアメリカに依存しているにもかかわらず、日本人にとってブラックボックスになっているこの地域の主要国は、以下のような国々です。
どの国も、メスティソおよび白人が人口の過半数を占めるキリスト教国です。もちろん、すべて民主主義国です。
そして、下に述べる内戦等の結果、ニカラグア以外は、国内でアメリカ側陣営が優勢となり、現在、事実上の従米国家になっています。
日本と同じアメリカの「属州」です。(関連記事:「今の日本人は日本人ではない。「現代のローマ帝国」アメリカの属州とは?」)
これら陸側の主要国はスペインの植民地だった地域ばかりです。
一方、カリブ海側は、ジャマイカや投資信託で有名なケイマン諸島など、イギリス連邦の島国が多く存在します。キューバもカリブ海側です。
特徴1:アメリカ軍との歴史なしに語れない地域
キューバと中米諸国は非常に近い距離にあります。
米ソ冷戦時代、アメリカはキューバを皮切りに周辺国が共産主義化するというドミノ理論を危惧していました。
そのため中米主要国は、すべて冷戦以降、アメリカ軍による軍事干渉を受けた歴史をもっています。
(永世非武装中立宣言をしているコスタリカを除く)
アメリカ軍に訓練を受けた民兵組織「デス・スクワッド(death squad/死の部隊)」および政府軍と、左派ゲリラ勢力との内戦が36年続いた。
グアテマラと同じ「デス・スクワッド」および政府軍と、左派の民兵組織との内戦が12年続いた。
詳しくは「リアル「北斗の拳」の国エルサルバドル マンガで知る中米の治安の悪さの理由」
アメリカ軍の支援を受けた民兵組織コントラと、政府軍による内戦が10年間続いた。
アメリカの中米介入のための軍事拠点となり、アメリカ軍の支援を受けたニカラグアの民兵組織コントラの根拠地となった。
1989年から1990年、アメリカ軍による直接軍事行使「パナマ侵攻」がおこなわれた。
英語版wikiによると、死亡した民間人の数は200とも4000とも言われ、正確には不明。
パナマ侵攻は冷戦の終わりが決まった1989年12月に行われています。
ソ連側の勢力と戦う心配がなくなったからこその軍事侵攻だったかもしれません。
なんにせよ、中米の歴史は、アメリカ軍なしに語れないといっていいでしょう。
1989年の米軍によるパナマ侵攻(英語版wikiより)
特徴2:世界で最も殺人発生率が高い地域
以下はstatistaによる、2021年の世界の殺人発生率(人口10万人当たりの発生件数)です。
(ranking of the most dangerous countries in the world 2021,by murder rate)
エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスという、世界で最も治安の悪い中米3国のことを、英語圏では「ノーザン・トライアングル(Northern Triangle)」と呼んでいます。
この2021年のランキングでも、そのうち2国であるエルサルバドル、ホンジュラスが上位を占めています。他も、レソト王国と南アフリカ共和国以外、すべて中南米の国です。
このうち、米領ヴァージン諸島、ベリーズ、セントビンセント・グレナディーン、セントクリストファー・ネイビスの4国はタックス・ヘイブンとしても有名なところです。
・・・それにしてもイギリス連邦の多さが目立ちますね。
一方、中米の民主主義の国の中で、最も安全とされる国はニカラグアです。その殺人発生率は7.19件です。社会主義国のキューバになると5.05件です。(ともに2016年の数字)
参考として、2012年のデータしかありませんが、北朝鮮の殺人発生率は人口10万人あたり4.7件です。これら中米の国々より低いことになります。
また、同じ方法で算出した日本の殺人発生率は0.3です。
先進国の軍と関わった結果の殺人率
中南米とアフリカは、ともに世界で最も治安の悪い地域です。
特に中南米は、銃器を使った殺人率がアフリカより高いのが特徴です。
これは過去のほとんどの内戦にアメリカや旧ソ連、ヨーロッパの先進国の軍が関わっていたため、軍事訓練の経験を持つ人物が闇社会に多いことが原因でしょう。
2017年 人口10万人あたりの銃器による殺人発生率(英語版wikiより)
(関連記事:「リアル「北斗の拳」の国エルサルバドル マンガで知る中米の治安の悪さの理由」)
特徴3:世界でアフリカ並に格差の激しい地域
以下は中米主要国を一人あたりGDPが高い順に並べ、世界順位を併記したものです。
順位 | 国名 | 世界順位 |
---|---|---|
1 | パナマ | 75 |
2 | コスタリカ | 80 |
3 | キューバ | 92 |
4 | メキシコ(参考) | 93 |
5 | グアテマラ | 125 |
6 | エルサルバドル | 133 |
7 | ホンジュラス | 158 |
8 | ニカラグア | 172 |
世界的なタックスヘイブンを擁するパナマ、コスタリカが経済的に上位にあることがわかります。
そして、この2国が上位にくる理由はタックスヘイブンだけではありません。
パナマはパナマ運河により安定した収益があります。
コスタリカはFTZ(自由貿易地域)を設けています。
そこにインテル, Dell,ヒューレット・パッカード, Bosch, DHL, IBMといった欧米企業を誘致し、欧米資本に頼ることで経済的に成功しています。
結果、パナマやコスタリカの順位は、中国(世界79位)、ロシア(82位)と同じぐらいです。
「なかなか良いのではないか?」と思うかもしれません。しかし、この2国には裏があります。
コスタリカの輸出の20%と国のGDPの5%を担っていた時期もあるインテルのマイクロプロセッサー施設(英語版wikiより)
人口も面積も少ないのに格差は激しい国々
以下はこれら中米主要国の近年のジニ係数です。ジニ係数は数値が大きいほど格差が激しい社会であることを表しています。
国名 | ジニ係数 |
---|---|
パナマ | 49.68 |
コスタリカ | 48.13 |
ホンジュラス | 47.61 |
グアテマラ | 46.47 |
メキシコ(参考) | 45.11 |
ニカラグア | 44.05 |
エルサルバドル | 38.8 |
タイ(参考) | 34.9 |
グアテマラ、ニカラグア2014年、他は2019年の世界銀行のもの
※キューバは古い資料のみのため省きます。
中米で最も格差が激しい国は、パナマです。
パナマのジニ係数49.68という数字は、世界ランキングで見ても10位になります。
そしてパナマより大きな値を持つ世界の9国は、ブラジルを除くとアフリカの国だけです。
二番目にジニ係数が大きいコスタリカも世界12位です。
つまり中米で最も豊かな2国は、最も格差が激しい2国でもあるのです。
上の2019年の調査ではエルサルバドルのジニ係数が低いですが、この点については過去記事「日本は真似できない 「第三世界の金融国」エルサルバドルのあきれた処世術」をご覧ください。
一般的に格差が大きい国というのは、国土が大きく人口も多い傾向なのですが、
2国はともに、人口500万人程度の小国でありながら、アフリカ並に格差が大きいです。
中米の国々は、このように国の規模の小ささの割に格差が激しいのが特徴です。
この地域は、格差の上位2%程度の人たちが政治も経済も掌握している国がほとんどだと、英語版wikiにはあります。
※北米に分類されることも多いメキシコに関しては、ご興味がありましたら、過去記事
「世界で最もアメリカ依存の国」
「メキシコ人から見た日本人。これってアメリカ依存の国の特徴?」
等を、ご覧ください。
<関連記事>
明治期のイギリス大使が日本に向けた不吉な予言
リアル「北斗の拳」の国エルサルバドル マンガで知る中米の治安の悪さの理由
日本は真似できない 「第三世界の金融国」エルサルバドルのあきれた処世術
http://www.taxlabo.com/tax_haven/taxhaven_oecd.html
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/murder-rate-by-country
https://www.theglobaleconomy.com/North-Korea/homicide_rate/
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_GDP_(nominal)_per_capita