日本の伝統に思うこと

経済大国を作った戦前世代、失われた20年の戦後世代

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生まれた時代で大きく分断されてる「日本人」

敗戦時、私の父は5歳でした。まだ小学校に通っていなかった年齢です。
なので戦前生まれではありますが、GHQが日本を占領した後の教育を受けた世代です。かろうじて「君に忠、親に孝」といった戦前の儒教教育の名残をいくつか知っています。

英語はできませんが、アメリカはじめ欧米の文化を大変崇拝しています。アメリカに対しての観察、議論は彼の人生の最大の関心事の一つといっていいでしょう。

父の母である祖母は当時、占領軍に「ギブ・ミー・チョコレート!」と叫んで得た食料を子供たちに与えていたそうです。幼い父の頭にアメリカが「豊かさの象徴」として刷り込まれたのは想像に難くありません。

戦中戦後の日本の貧困を幼い時代に見て、なおかつGHQによる戦後教育を受けた世代。彼らは、ちょうど高度成長期に普及したテレビを通して、西欧文化に強い憧れを持つようになった世代と重なります。プレ団塊世代といったところでしょうか。
(関連記事「戦後の日本人の原風景はアメリカドラマ」)

戦前教育を受けた世代が去り、日本の衰退が始まった

このプレ団塊より更に前の人たち、つまりGHQに影響される前の教育を受けた最後の世代は、どのぐらいの時代に生まれた人たちでしょう?
昭和12年生まれが、敗戦の年にぎりぎり小学一年生にあたります。都会生まれなら疎開先で過ごした人が多かったことでしょう。昭和12年生まれが敗戦前の教育を受けた期間は、幼い時期のわずか1~2年程度です。それでも、GHQの介入が入る前の教育を知る最後の生まれです。

さて、この昭和12年生まれの方々は、いつごろまで社会の主力として働いていたでしょう?
定年退職時期を60歳とすると、12+60=昭和72年――平成9年です。現在は65歳定年も珍しくありませんが、この世代の方々が退職された時代は、まだ60歳定年が一般的でした。
つまり平成9年には、自営業者や会社役員のような例外をのぞくと、社会で働く人の全てが戦後教育しか知らない世代に入れ替わっていたということです。

この平成9年、1997年とは、どんな年だったでしょう?

四大証券会社の一角だった山一証券が破綻した年です。北海道拓殖銀行が破綻したのがその翌年の平成10年。

大卒の就職がバブル採用から打って変わって厳しくなったのが平成6年からですから、91年のバブル崩壊に手を打てないでいるまま、経済悪化が深刻化してきた時期といえるでしょう。

バブルが崩壊した91年、昭和12年生まれは50代半ばです。つまり当時、敗戦前教育の価値観を知る人は、55歳~定年までの人しか残っていなかったことになります。

しかも、バブルが崩壊しても、直後の社会は、それほど危機感をもっていなかったのです。過去の昭和の不景気のように、2,3年待てば回復すると、多くの人が考えていました。
私の知り合いでも、景気が回復してから就職活動しようと、大学院や専門学校に進学して就職時期を先延ばしにした人が複数いました。

確かに高度成長期を含む戦後昭和にも何度か不景気がありました。そうした不景気の中で、敗戦前教育を受けた昭和の経営者たちは、解雇者を出さないよう、従来の日本人らしい工夫と団結で乗り切ることが多かったです。今にして思うと、それは、もしかしたら不況が長びかなかった理由のひとつかもしれません。
(関連記事:「終身雇用制度の元祖はパナソニック!実は不況に適した制度?!」)
 

日本式に背を向けた結果、止まらない迷走

しかし90年代、戦後教育世代が大多数を占めるようになった企業は、従来と違った対処を行いました。かねて憧れてきたアメリカやヨーロッパの先進国がやってることを真似た対処をしたのです
リストラという外来語、そして早期退職制度という言葉が社会に定着したのは、この90年代でした。

それこそが新しい時代、"先進国"として欧米に肩を並べるようになった日本に必要なことなのだと、多くの経営者が飛びつきました。
否定の声をあげた人はわずかでした。しかも、賛同を受けることは少なく、時代に取り残された古い時代の人間と軽蔑され、変わるよう忠告される始末でした。

当時、20代だった自分も、そういうものなのだと深く考えることなく、変化を受け入れていました。

 

しかし、その後、日本の景気は回復するどころか、ますます落ち込んでいきます

アジアで一番だったはずが、中華圏に抜かれ、韓国に迫られ、G7では落ちこぼれ国。

借金をしないと子供を進学させられない家庭も増えました。

結婚できないほどの若者の貧困が社会問題として頻繁に取り上げられるようにもなりました。90年代なら、信じられないような話です。

今までの常識を終わりにして過ちの起点に立ち戻らないと、負の連鎖を止めることはできない

このように
戦前までの日本の伝統教育を受けた世代が定年退職し、社会から消えた時期

日本の20年以上にわたる経済衰退--「失われた20年」の始まり

この二つは、ほぼぴたりと、重なるのです。

 

戦前教育を受けた世代は、多くの世界に通用する企業を創業し、日本を経済大国にしました。

しかし
戦後教育を受けた我々は、豊かさを維持することすらできないでいます。

日本の衰退の原因の根本が、教育の問題にあるのだとしたら、

失われた20年は、20年では終わらない。失われた30年、40年になるのかもしれません。

※この記事はもともと2016年に書かれたものです。2022年現在はすでに、失われた30年になってしまっています。

 

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