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2019年 アメリカ軍の生物兵器研究所における漏洩そして閉鎖とは?
新型コロナウイルスが武漢のウイルス研究所の漏洩により広まったという疑惑は、コロナ禍の初期から報じられてきましたね。
つい先日も、読売新聞や朝日新聞から「武漢の研究所の研究者らが2019年11月に体調を崩していた」といった内容の記事が発表されています。
しかし、その一方で、日本国内では不気味なほど報道されない、あるニュースがあります。
同じ2019年秋、アメリカ軍のウイルス研究所 フォート・デトリックが閉鎖されていたという事実です。
2019年7月、CDCは汚染物が施設から漏洩した可能性があるとして、フォート・デトリックのウイルスや病原体に関する全ての研究をストップさせました。
CDCは国家安全保障への懸念があるとして、閉鎖の理由は公表しませんでした。
閉鎖は4ヶ月近くに及び、11月に一部に制限を加えて再開、現在は通常稼働しています。
中国側はこの件と、2019年10月に武漢で行われた国際的な軍の運動会に参加したアメリカ軍を結びつけ、コロナウイルスを広めたのはアメリカだと主張しています。
(武漢で行われた国際的な軍の運動会とは→過去記事「日本が生物兵器の実験場となる可能性」)
日本にいると「中国側がデマを流してるのではないか?」と思ってしまうかもしれません。しかし、フォート・デトリック閉鎖は本当にABCニュースなど英語圏の大手マスメディアが伝えている件です。日本では報じられてないだけです。
米ABCニュース見出し
英インデペンデント紙見出し
このようにコロナウイルス問題がどこの国の責任かは、国際的な水掛け論になっているのです。
ただ、日本において、武漢の研究所への疑惑が初期から報じられてきたのに対し、フォート・デトリックの件が取り上げられることがなかった点は、少しひっかかるところです。
日本人も知っておくべきフォート・デトリック
アメリカの生物兵器研究所「フォート・デトリック」の名前を知らなかった方は多いのではないでしょうか。私自身もコロナ禍がなければ知りませんでした。
しかしアメリカ国内では有名な施設です。テレビ番組のネタに登場したりもします。
過去記事「今の日本人は日本人ではない。「現代のローマ帝国」アメリカの属州とは?」で取り上げたように、現代ではアメリカに愛国心のようなものを抱く日本人が多いです。しかし、その割にアメリカについて無知だったりします。日本人もフォート・デトリックについて知っておいていいのではないかと思います。
日米開戦と共に生まれたフォート・デトリック
場所
ワシントンD.C.に隣接するメリーランド州にあります。メリーランド州はワシントンD.C.との関係も深く、連邦政府で働く人が多く住んでいるといわれています。
メリーランド州はアメリカで6番目に古い州でもあります。周辺の州も、みなイギリス植民地時代からの歴史を持つ古い州ばかりです。
歴史
フォート・デトリックは最初から研究施設だったわけではありません。
もとは「デトリック・フィールド」と呼ばれ、飛行場であり、パイロットの訓練場でした。
「デトリック」という名称は第一位世界大戦で活躍した軍医フレデリック・デトリックの名からつけられました。デトリックはメリーランド州に古くから根付く裕福な家系の出身でした。
真珠湾攻撃を受け、アメリカの第二次世界大戦への参戦が決まります。
このときアメリカ政府は、この場所を「キャンプ・デトリック」という細菌の研究施設に衣替えします。
大戦中、この施設で炭疽菌を中心としたさまざまな生物兵器の研究が行われました。
戦後になるとアメリカ軍はナチスにいた元技術者もフォートデトリックに採用します。
職員は増え、敷地は買い足され、施設は増設されていきました。
業務内容
初期は生物兵器の研究開発が行われていました。
危険な病原体を扱うため、職員の間に犠牲が出ることもありました。1950年代に炭疽菌で2名、1964年にはウィルス性脳炎で1名が亡くなっています。
1969年にアメリカ政府は生物兵器の開発をやめることを発表します。
しかし、その後も防御用の研究という名目で炭素菌や疫病を起こすバクテリア、猛毒のリシンなどを施設内においてきました。
「日本が生物兵器の実験場となる可能性」でとりあげたエボラウイルスも、ワクチン開発試験用の名目で存在します。
また市民の間で起こる疫病のアウトブレイクの調査や公衆衛生についての研究も行われてきました。
日本とは違う!アメリカ政府と市民の「距離」
英語圏のネットみると、アメリカ国民の多くが、フォート・デトリックを「頼もしい」というより、「恐ろしい」と感じているようです。
「何を隠しているかわからない不気味な施設」という意見が一般的なようです。
なぜでしょう?
アメリカ一般市民にとっての「政府」
スティーブン・キングの「ファイアスターター」という小説をご存知でしょうか?「炎の少女チャーリー」という邦題もあります。1980年に出版された作品です。
若い世代には、オマージュ作品だといわれる宮部みゆきさんの「クロスファイア」の方が知られているかもしれません。
序盤のあらすじを書きますと・・・
貧しいアメリカ人男女が「ショップ(the Shop)」と呼ばれる政府機関(CIAの下部組織と訳す本もある)の薬の治験者となった。その後、二人の間に生まれた娘は超能力者だった。ショップは娘を欲しがり、母親はショップにより殺害され、父娘は逃亡を続ける・・・
英語版wikiにて、フォート・デトリックが「ファーム(the Farm)」と呼ばれていると知ったとき、この小説のことを思い出しました。
「ザ ショップ(店/Shop)」と「ザ ファーム(畑/Farm)」・・・
著者スティーブン・キングは、もちろん生粋のアメリカ人です。
「アメリカ政府は貧しい自国民を得体のしれない実験の被験者にしうる。場合によっては殺すこともある」
彼はそう思っていたということでしょう。彼の小説を愛好したアメリカ人も。
これは日本人には理解が難しい感覚かもしれませんね。
日本軍の生物兵器部隊「731部隊」は人体実験を行ったとされていることで知られています。しかし、自国民を実験対象にしたという話はありませんでした。外国人が対象でした。
今も日本人の多くは、政府やその職員が積極的に自国民を傷つけることはないと信じています。「上級国民」などの罵り言葉も、アメリカの政府と国民の距離を考えれば、甘えでしょう。
なぜフォート・デトリックは国の中枢部にある?
もうひとつ、驚かされたのはフォートデトリックの場所です。
「危険な細菌を扱う施設なら、人里離れた僻地にあるだろう」と、日本人なら多くが考えるのではないかと思います。
しかしフォートデトリックはワシントン.D.Cに近く、連邦職員も多く住む州にありますね。
それほど離れていない位置にニューヨーク、そしてニューイングランドが控えています。
↑赤い部分が昔からの上流階級が多い地域、ニューイングランドです。
2つとも、「アメリカのバラモン階級」とも呼ばれる、古くからの上流階級が多く住む地域です。植民地時代から続く開拓者の子孫の家系も多いです。
彼らはファイアスターターが書かれた時代にはWASPと呼ばれ、現在もCIA職員を多く出しています。
(関連記事:「上流階級WASPが行く学校 アメリカ聖公会の教育方法」)
過去記事「なぜアメリカの真似をする国は失敗するのか?理由は2種類の白人たち」で述べたように、アメリカでは、はじめに土地を開拓した家系と、後からきた経済移民の家系に繋がりがあまりありません。同じ白人のキリスト教徒同士ですが、文化背景も、宗派も違います。
(関連記事:「アメリカ人がどの社会階層なのか、ざっくり知る方法 富裕層の傾向は?」)
彼ら上流階級にとって、「アメリカ」とはイギリスにほど近い北東部であり、他はあとから追加されたオプション部分でしょう。
万一の場合は北東部と他を切り離し、南北戦争のときのように他州と戦う・・・そんなことを考えてフォート・デトリックは配置されているのかもしれません。
↑1776年独立時のアメリカの領土
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https://en.wikipedia.org/wiki/Fort_Detrick