前記事「バブル期に日本は何をしくじった?~結婚式の変化が生んだもの」で、バブル~90年代は日本の結婚制度が宗教や伝統から離れた時期だと書きました。
日本らしいものに関心が薄く、西洋志向だった当時の日本人たち・・・つまり、この時代は日本文化の大きな変貌期でもありました。
現在、私達の生活から失われつつある伝統的な文化については「日本の伝統に思うこと」カテゴリの記事などで以前から触れてきましたが、今回も90年代頃から目にしなくなってきた過去の文化について、少し書いてみます。
かつて花嫁の嗜みだった華道(生け花)
高度成長期までの日本では花嫁修業として、料理、生け花、茶道をたしなむことが独身女性に勧められていました。
当時の日本で花をいけることは特別なことではなく、日本式の生け花に使う道具「剣山」が、ごく普通の家庭にもあることも珍しくありませんでした。
↑剣山
現在でも60歳代以上の女性なら、教室に通ったり本を読んだりして、基本は知っているという方が多いのではないかと思います。
しかしバブル期になると、フラワーアレンジメントという名称で洋風の生け花が入ってきます。
花を盛り付ける豪華な手法に、幼い頃からテレビ、漫画を通して洋風文化に親しんできた当時の若者は惹きつけられました。プレゼントとして見栄えがしたのもヒットを後押ししました。
フラワーアレンジメント
現在、伝統的な日本の生け花のポジションは、すっかりフラワーアレンジメントに取って代わられてしまいました。
ネットで生け花教室を検索すると、ヒットする多くは高齢の女性が昭和の時代から続けてきたころです。
一方、フラワーアレンジメント教室は山のようにありますね。
剣山が何だかわからない若い方も増えているようです。
逆に私のほうは今回調べるまで、フラワーアレンジメントの剣山にあたるものが、吸水スポンジ、フローラルフォーム、オアシスなどと呼ばれてることを知らなかったのですが。(´_` )
日本から伝わった盆栽が海外で人気を集める一方で、肝心の日本人の盆栽人口は高齢者の減少とともに減る一方といわれています。
盆栽の輸出も中国が中心です。
日本の伝統的な生け花もいずれ、盆栽のような運命になってしまうのかもしれません。
日本式の生け花(百度より)
聞かなくなった「手編みのマフラー」
バブル前の昭和の女性誌にはキルティング・パッチワーク、刺繍、レース編み、七宝焼、パンを材料にした造花、人形作りなどの通信教育がよく掲載されていました。
初めてでもかんたんにできるパンねんどの花 (レディブティックシリーズ (1081))
手編みのセーターやマフラーを恋人や友人にプレゼントするというのが昭和期の多くの少女の夢でした。
趣味の欄に手芸と書く女子学生は一般的でしたね。
しかしバブル期になると、手工芸関係の広告は減り、かわりに若年層向けの化粧品、アクセサリー類の広告が増えていきます。
今は手作りするにしてもネイルなどにつけるアクセサリーが人気ですね。
そして手芸の広告よりアイプチ(目を二重瞼にする薬剤)の広告のほうが多いのではないでしょうか。
手芸自体も、編み物や刺繍のような根気や計画性、集中力を必要とするものではなく、ニードルフェルトのような短時間ですぐに作れるものが人気を集めています。
近年、若い男性ほど工作作業から離れる傾向が見えることは「世界で進む有人ドローンの開発。・・・日本は?」で触れましたが、その点は女性も同じようです。
かつて、「日本人は手先が器用だ」といわれていたのには、それなりの背景がありました。
・・・でも、今は、わからないかもしれないですね。
奈良時代から続く七宝焼はどこへ?
七宝焼というものをご存知でしょうか?かつてシルクロードを渡って日本に伝来し、以降千年以上ものあいだ伝えられてきた技術です。
七宝焼(しっぽうやき、英語: enamel)とは、金属工芸の一種で伝統工芸技法のひとつ。
日本最古のものは奈良県明日香村の牽牛子塚古墳より出土した「七宝亀甲形座金具」であり、奈良時代には正倉院宝物の「黄金瑠璃鈿背十二稜鏡」(おうごんるりでんはいじゅうにりょうきょう)がある。
明治時代の一時期に爆発的に技術が発展し欧米に盛んに輸出された。
wikiより抜粋
彩光舎 七宝焼き 66 胡蝶蘭 飾り皿 004-03
難しいイメージを持たれるかもしれませんが、一般人の愛好者も多い普通の工芸技術です。
高度成長期の日本では少女雑誌や女性誌に七宝焼の通信教育の広告がよく掲載されていました。
書籍版・みんなの科学を紹介しているページによると
昭和40年代にはNHKが子供向け番組で作り方を紹介したりしていたようです。
かつての日本人にとっては身近な技術だったんですね。
しかし現在、七宝焼の技術はおおむね、高齢者の間にとどまっています。若い人は製法どころか存在さえ知らない人も少なくありません。
ネット上にある手作りアクセサリー販売大手サイトtetoteを検索すると七宝焼は112件しかヒットしません。(2017年8月2日現在)。
近年の手作りアクセサリーブームを受けて、レジン(シリコン樹脂)作品は20064件もあるというのに。
七宝焼世代と若者の間にいる40代後半~50歳代の女性たちは、七宝焼の存在は知っていても、ババくさいなどとネガティブなイメージを持ってる人が少なくありません。
これらの女性たちには、1960年代生まれ・・・いわゆるバブル世代と呼ばれる人たちも含まれます。
昭和に青春時代を送ったバブル世代は上に述べたように、若い頃、手編みのマフラーや難易度の高いマスコットを作ったりした世代でもあります。
日本人らしい手先を使う繊細な作業の素養を持つ人が今の若い世代より多いといえるでしょう。
しかしテレビや雑誌を通して知る欧米風の生活様式への憧れが強く、伝統的な東洋文化への興味は少なかった世代です。ちょうど、文化的な境目の世代といえるかもしれません。
(関連記事:「誤解されがち?実は優秀?1960年代生まれ=バブル世代の特徴7つ」)
この世代の女性の多くは若い頃、七宝焼のような伝統的な工芸品より、バブル期に大量に入ってきた西洋風デザインの品々に関心を寄せていました。
若い頃に培った手先の器用さを活かして、近年の手作りアクセサリーブームで活躍している人も少なくないようです。
しかし彼女らが作るレジン(シリコン樹脂)などを使った西洋製法のアクセサリーや小物は、欧米だけでなく、インドでも中国でも、世界中で同じようなものが作られています。
そして、似たような洋風アクセサリーでも、ヨーロッパ人が作ったものと、日本含むアジアなど他地域の人が作ったものでは、たとえ出来が同じだとしても、国際的な価値は大違いです。
みんな、どうせ買うなら、本場のものがほしいのです。
日本人の寿司職人は、たとえ半年ほどスクールで学んだ程度の腕前だとしても、日本人だというだけで海外ではひっぱりだこだといいます。丁度、それと逆の話ですね。
高度成長期以降に成長した日本人の大多数は、テレビをはじめとするマスメディアの影響下、和風より西洋風の美しいものに多く囲まれて育っています。血は東洋でも、西洋的なデザインに親しみや魅力を感じる人が多いのは当然のことでしょう。私だって、その一人です。だから、バブル世代の気持ちもわかります。
・・・しかし、もったいないことです。
今後、西洋手法で作られた手作り小物、アクセサリー隆盛の裏で、七宝焼の伝統を知る日本人は、さらに減少していくかもしれません。
外来種に駆逐されていく日本在来種のように。
<関連記事>
Made in Japan品質はいつまで続く? 君津市のトンネル事故に思うこと
バブル期に日本は何をしくじった?~女性のまわりから駆逐された伝統