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アメリカに飲み込まれつつある「属州」日本の文化
前記事で自国を現代のローマ帝国だとみなす説がアメリカで人気だと紹介しました。
アメリカを現代のローマとすると、その敗戦国である日本は奴隷の供給元であるローマの「属州」にあたります。
- 大国ローマに敗戦した歴史をもつ地域
- ローマの「領土」だが「本土」ではなく、本土との格差が存在した
- ローマの経済を支えた「奴隷」を生み出す地だった
- アメリカが現代のローマなら、日本、フィリピン、メキシコなどが属州に相当する
今回は古代ローマそしてアメリカの「属州」がどんなものなのか考えてみます。
古代ローマが帝国としてあそこまで大きくなったのは、すべての属州で信じられている宗教やその土地に根付いている文化を拒絶しなかったからです。属州の神が都市ローマで信仰されるのもあたりまえでした。
このようにローマは征服され属州になった地域に、ローマ文化を無理に押し付けることはありませんでした。そのため属州を故郷に持つ奴隷たちから憎まれることはあまりありませんでした。
しかし一方でローマはこうした属州の神々をキリスト教の聖者と同一視させる教化を数世代に渡って行います。土着の女神を聖母マリアと同じものだと教えたりしたのです。
また属州にローマの通貨を流通させます。
当時の硬貨にはマスメディアに近い役割がありました。
硬貨は古代ローマの経済において流通を支えるという役目を果たしたと同時に、そこに描かれた図像や文字で意味や考え方を広めるという役目を持っていた
日本wiki「古代ローマの通貨」より
通貨はローマ末期近くなるまでローマでしか造幣されませんでした。そこにはローマの伝説的な英雄や貴族の祖先などが描かれていました。
結果、ローマの属州だった地域は世代交代の末、すべて最終的にローマの歴史や人物に親しみを持つ、ローマ文化の国になりました。
キリスト教信仰も全地域に浸透します。エジプトなど北アフリカのローマ属州もイスラム教が誕生する前はキリスト教の地域でした。
戦後の日本でも世代交代が進むごとにローマ=アメリカ文化が浸透してきていますね。
いつのまにか時代劇はすたれ、代わりに「なろう系」ラノベなど西欧風の舞台や人物が登場するコンテンツが支持を得ています。歌謡曲の歌詞に英語が交じることも今やあたりまえです。
過去記事「日本の若者に忍び寄る「フィリピン人化」」において、日本人が若い世代になるほどアメリカ文化に強い親しみを持つようになっている調査結果をとりあげました。これは、属州日本のローマ化の進行がデータとなって表れたといえるでしょう。
ローマ化が進んだ属州は、どうなるのか?
繁栄は一部だけ?古代ローマの明と暗
「パンとサーカス」という言葉に代表される古代ローマ本土の贅沢ぶりは日本でもよく知られていますね。しかし、その属州はどうだったのでしょうか?
紀元14年の古代ローマの一人あたり収入分布のマップを見てみましょう。
首都ローマのあるイタリア本土は斜線、そしてクリーム色の地域が一人当たり収入が低い地域、赤色が濃いほど高い地域になっています。
ローマ本土が現在換算で857ドル、一番薄いクリーム色の属州が425ドルと、やはりローマ本土と属州の間にはおよそ2倍にわたる経済格差がありますね。
このマップの元記事である「brilliantmaps.com」は「ローマ帝国はアメリカのように格差が激しかった」そして「ローマ本土にはエリートが集まっていた」と述べています。
ローマから遠いほど豊か?
この地図で面白いのは、ローマ化の影響が少なかった属州ほど、豊かな傾向にある点です。
もっとも豊かだった属州エジプトは古代文明が栄えた地でもあり、独自の文化基盤が強かった土地でした。属州でしたがローマ通貨だけでなく独自の通貨も流通していました。ローマ崩壊後はいち早くキリスト教文化圏から抜けてしまいます。
ギリシャも豊かな属州でしたが、こちらもローマ以前から続く独自のヘレニズム文化が栄えていた地でした。
言語もエジプトとギリシャはともにローマのラテン語よりも、ギリシャ語が普及している地域でした。
赤色がラテン語地域、緑色がギリシャ語地域(redditより)
一方、貧しいクリーム色の地域はローマに近い属州ですね。ローマ化の影響をストレートに受けている、完全なラテン語文化圏です。
これらの地域は現在ひきもきらぬヨーロッパの先進国の場所にあたりますから、貧しさの理由は住民の民族性の問題ではないでしょう。
つまり古代ローマ領域内においては、本土ローマに地理的に近く独自文化が乏しい、つまり素直にローマ文化の影響を受けていた属州ほど、貧しい傾向だったのです。
日本人が知らないアメリカ周辺の闇
では英語版wikiからみる、アメリカ合衆国とその周辺の一人あたりGDPはどうでしょう?
もっとも豊かな国は当然、アメリカです。
次いで豊かな北部の隣国カナダは、アメリカと同じくイギリスを祖とする兄弟国ですね。
アメリカ合衆国を支配してきた、東部に住む古い家系の富裕層=WASP/バラモン階級とも歴史的に親密な国です。属州とは違います。
(関連記事:「ディープ・ステートはあるのか?アメリカ国民も認めるカースト制度」)
しかし、南部の近隣国は古代ローマの北部の属州と似た状態になってます。
すぐ下にあるのは日本と同じくアメリカに敗戦した歴史をもつ「属州」メキシコです。やはりアメリカ本土と2倍以上の差があります。
そしてメキシコの下には橙に塗られた$2500-$5000の国々=メキシコよりさらに困窮する地域があります。
これらはグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスであり、ノーザン・トライアングルと呼ばれています。治安の悪さはフィリピンをも超える、この世の地獄かと思わせる地域です。
(関連記事:
「リアル「北斗の拳」の国エルサルバドル マンガで知る中米の治安の悪さの理由」
「アメリカの属国の最終形態 中米の特徴3つ」)
そして、この三国はともにアメリカの内政干渉を受けた過去があり、非常に親米的な歴史を持つ地域でもあります。
グアテマラは第二次世界大戦の際、アメリカに同調して自国のドイツ系住民を拘束したほどです。エルサルバドルもアメリカに同調しラテンアメリカで唯一イラク戦争に派兵しました。自国通貨も米ドルを使用しています。ホンジュラスも米軍機関を国内に擁しています。
古代ローマと現代のローマであるアメリカ。どちらも本土は非常に豊かですが、属州はローマに素直なほど困窮する・・・といったところでしょうか。
日本の衰退は日本人のせいではなく属州化が進んだせい
失われた30年を受けて、日本国内では日本の貧困化の理由を日本人の特性や日本文化にあるとする説が広まっています。
しかし、日本人や日本文化に問題があるとすると、戦後の高度成長期から世界2位の経済大国まで上り詰めた理由を説明できませんね。
私は世代交代により日本のローマ化が進み、日本が独自性を失いつつあることが貧困化につながっていると考えます。
シンガポールの故リー・クアンユーが残したという「日本は今、世界でなんら変哲もない平凡な国へと向かっている」という言葉の意味は、つまりこういうことだったのでしょう。
(関連記事:「不景気しか知らない世代こそ見てほしい 日本に勝った先進国シンガポール 」)
現代のローマ/アメリカ合衆国の属州は、どういうわけか同じレシピで作った料理のように似た国になります。
敗戦後、世代交代とともに本来の日本という国の個性や日本人というアイデンティティが少しずつ溶解した・・・そして代わりにフィリピンやメキシコ、エルサルバドルと同じような、多々あるアメリカ属州の新たな一つである極東の列島が顔をあらわしてきた、というわけです。
(関連記事:
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「白人の真似ばかりの国 フィリピンは日本の未来か?」)
今「日本人」と名乗る民の大多数は、日本人の子孫であり、日本語を話すけれども、昭和まで続いた本来の日本人ではない。世界のあちこちにある超大国アメリカ/現代のローマの「属州」を母国とする民なのです。
昭和生まれの日本企業の製品よりApple製品をほしがり、世界のどの観光地よりハワイに親しみを持ち、中国やロシアよりアメリカが強いとほっとする人が多いのは、それが属州の民としての「愛国心」だからなのです。
次「昭和までの大金持ちと、日本を貧しくした現代の大金持ち その違い」では、なぜローマ化が進んだ民は自ら貧しくなってしまうのかについて取り上げます。
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