目次
今回と次記事では、貧困化が深まる日本が生んだ大企業の例としてソフトバンクを取り上げます。
知ってるようで知らない ソフトバンクってどんな会社?
もともとは出版社だった
孫さん(孫正義氏)が出版社「日本ソフトバンク」を設立したのは1981年です。当時24歳でした。
その翌年から、NECの機種を特集する月刊誌「Oh!PC」を発行します。
当時はNECのPC-98シリーズが人気の時代でした。「Oh!PC」は有名な雑誌になり成功をおさめます。
ほかにもシャープの機種を特集する「Oh!MZ」やコンピューター技術関係の本を多数出版していました。
ITバブルを覚えている世代の中には、ソフトバンクの本を購入した方も少なくないでしょう。
現在もソフトバンクの出版事業はソフトバンク クリエイティブ(SBクリエイティブ)という名称で残り続けています。
国鉄から通信会社?意外な前身
出版社ではない、通信会社としてのソフトバンクはボーダフォンを買収したことによって誕生しました。
ボーダフォンはもともと、以下のような変遷をたどった組織でした。
1980年代に民営化が決まるまで、日本では公共企業体(三公社)というものが存在しました。JRは国鉄、NTTは電電公社、JTは専売公社でした。これらは国によって運営されていました。
国鉄には鉄道の線路に沿った12000kmにわたる長距離中継回線がありました。民営化後、これを通信に使用しようと生まれた企業が日本テレコムでした。「官」によって生まれた組織が回り回って今のソフトバンクになったのです。
見る目が変わる?ソフトバンクの3つの過去
ペッパー君はフランス生まれ
ソフトバンクが2015年に発売したロボット ペッパー君(Pepper)。マスコミで大々的に取り上げられ、接客に取り入れる企業も多かったですね。
ペッパー君はソフトバンク・ロボティクスという会社が出しています。この会社の創設は2014年。ペッパー君の初展示が2014年ですから、その年に発足した会社です。
実はソフトバンク・ロボティクスはペッパーを発表するまで、これといった活動をしていません。
ではペッパーを設計し、発表できる状態まで作り上げたのは、どこなのでしょう?
過去フランスにアルデバラン・ロボティクスという会社がありました。創業者はフランス人のブルーノ・メゾニエ氏。2004年からnaoという2足歩行ロボットの開発を行ってきました。ヨーロッパでは知名度のある会社でした。メンバーには福島の原発事故の際に活躍したような原子力施設向けロボットの開発に関わった人物もいました。
アルデバラン社のnao(英語版wikiより)
ロボットビジネスに興味を持った孫さんは、2012年にアルデバラン社の過半数株を買収します。
そしてフランスのアルデバラン社において、商用ロボット ペッパーの開発が始まります。
ペッパーにはnaoのシステムが流用されました。
一方でrobonewsの記事によると、ソフトバンクの買収後、ソフトウェア・エンジニアを中心とする多くの人材がアルデバランを退職していったとあります。
2015年、ペッパー君のマスコミ向け公開の少し前、ソフトバンクはアルデバランの創業者でCEOであるブルーノ・メゾニエ氏の持ち株の買収を通し95%の株を入手します。そしてアルデバランはソフトバンク・ロボティクスに吸収されました。現在のCEOは日本人です。
その後、日本wikiによるとソフトバンク・ロボティクスは2017年の決算で約314億円の債務超過におちいったとあります。
ペッパー君の兄弟機とされるアルデバラン社によるヒューマノイド ロメオ(Romeo)(フランス語版wikiより)
アリババ投資成功のカラクリ
孫さんは海外の多くの企業に投資を行っています。その一番の成功実績が中国アリババへの投資であることは、英語版wikiさえ認めるところです。
しかし、アリババが中国においてどのような位置にある会社なのかは、あまり知られてないのではないでしょうか。
中国ではたとえ国民であっても、政府の認可を得ないとホームページさえ公開することができません。
AmazonやFacebookなど中国進出を狙った欧米ネットサービスのほとんどが、中国政府によって締め出しや冷遇を受けていることも知られていますね。
そんな中国で最も力のあるネットショップモールがアリババによるタオバオ(陶宝)です。
中国のオンラインショッピングの売上高は日本でもニュースになりますが、その約80%がタオバオで取引されています。
他の20%もアリババの系列会社が中心です。ほぼ独占状態です。
また中国の電子マネーはアリババ系列のアリペイと、微信系列のwechatの2つの独占状態です。
そしてこのサービスは2つとも、中国人なら国民識別番号(日本でいうマイナンバー)、外国人ならパスポート番号を求められます。
一つの番号で複数のアカウントを持つことは認められません。国民識別番号を管理しているのは、もちろん中国政府です。
アリペイには金融商品を購入したり、銀行口座のように貯金する機能、個人間や海外への送金機能もあります。そうした個人のお金の動きは政府によって監視されていることになります。
中国のネット上では中国政府と信頼関係のない企業は成功できないのです。つまりアリババとは半官半民企業なのです。冒頭で取り上げた「公社」のネットビジネス版みたいなものです。
1980年代に電電公社が民営化され株式公開されると決まったとき、NTT株を欲しがる人の多さが社会現象になりました。当時の一般投資家の大多数から見ても電電公社=NTTの株は値打ちのあるものでした。実際、公開後のNTT株は期待通りの値動きをし、損する人はいませんでした。
孫さんは中国のNTT株を買い、それが普通に値上がりした。それだけのことだと思います。
日本の公社は本当に民営化されましたが、中国は閉鎖的なままです。時には強引な手が使われることもあります。ソフトバンクがアリババの株を売って換金しようとしても、自由主義経済の国の株の売買と同じ結果になるのかどうか、私にはわかりません。
SIMロックは打出の小槌
2015年まで、日本のキャリアは自社の携帯端末にSIMロックをかけていました。
顧客は端末の代金を払い終わった後でもキャリアの言い値を払い続けなくてはなりませんでした。
このSIMロック携帯、私が聞いたところだと日本と韓国だけだったといいます。海外ではSIMフリー携帯が一般的でした。
今では日本でも普及してきたSIMフリー携帯。通信費用は安いものになると月に千円程度です。その程度が実際の適正な額ということです。
SIMロックが一般的だった時代、契約者はそれよりはるかに多い額をキャリアに支払っていました。
その差額はそのまま利益でした。当時のキャリアは、どこも濡れ手に粟だったのです。
他社からの乗り換え勧誘や2年縛り制度など、キャリアが顧客の獲得、維持に力を入れていたのは、それだけ自動的に入ってくる利益が大きかったからです。
ソフトバンクはドコモやauと違って系列企業がありませんでした。そのため利益をより多く自己の成長のために使うことができました。
ソフトバンクは第2のソニーになれる?
畑違いの欧米企業の買収やマネーゲームに精をだしているソフトバンクの近年は、21世紀以降のソニーを思わせます。
日本国内の消費者および投資家向けのハッタリが多いところも似てますね。
(関連記事:「若い世代ほど知ってほしい トヨタ以上だった日本の栄光 ソニーの凋落(上)」)
しかしソフトバンクは、ソニーにはなれないでしょう。
ソニーは自社の製品を販売することによってマネーゲームの元手を得ていました。全盛期には欧米でもかなりの人気があったので、欧米は投資先であると同時に資金源でもありました。当時築いたブランド力は、現在でもそれなりに世界でお金を集める力を持っています。
しかしソフトバンクにそうしたブランド力はないです。ソフトバンクの主な資金源は日本の通信事業=国内インフラです。日本国民が日本国内で働いて得たお金を元手にしてるということです。
もともとソフトバンクは「商」や「財」よりも「官」に依存して富を築いてきました。
アリババの成功も日本国内でSIMロックにより得た富も、それを支えていたのは「政府」=「官」でした。ソフトバンクの通信事業自体、元は国鉄です。
ソニーのようなことをしてるけど、ソニーにはなれない。では、どこに向かうのか?
その答えは実は世界のあちこちにあふれているかもしれません。
次記事「ソフトバンクは貧困国型の企業。国家のお金を渡してはいけない人たち」でくわしく取り上げますが、私はソフトバンクは貧困国型の企業の特徴を備えていると思っています。
https://www.bbc.com/japanese/47985882
https://blog.goo.ne.jp/hwj-sasaki/e/70720187ec47144e48490bc0a9d3209a
https://news.mynavi.jp/article/20140921-a108/
https://en.wikipedia.org/wiki/Nao_(robot)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9
https://en.wikipedia.org/wiki/SoftBank_Group
<関連記事>
ソフトバンクは貧困国型の企業。国家のお金を渡してはいけない人たち