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日本が貧しくなった理由は、時代に取り残されたのでもなく、不運なのでもなく、なるべくしてなったのです。失われた30年の間に、世界にいくつもある貧困国の民と同じメンタリティを持つ人が増えてしまったというだけなのです。
バブル期までの昭和のお金持ちと、現代のお金持ち。同じ日本国に生まれたお金持ちの差をみると、その違いがよくわかります。
お金に心を惑わされまいとした昭和のお金持ち
2億円を死ぬまで無視して暮らした夫婦
90年代まで、ある自営業を営む老夫婦が近所に住んでいました。
夫婦は平成になってもガスコンロを使わず昔ながらの竈を使い続けていました。電化製品が壊れても買い換えるのではなく補修してつかい続けました。バブル景気の間も、非常に質素な暮らしをしていたといいます。
後を継ぐ子供がなく、そのせいか店舗を建て替えることもありませんでした。
彼らは晩年まで何十年もの間、同じ場所で同じように働き続け、そしてなくなりました。
しかし夫婦の死後に調べてみると、その家には、なんと2億円の資産があったそうです。
現代人なら、この話を聞いてまず思い浮かぶのは
「その2億円の遺産は誰の元に行ったのだろう?」
という点だと思います。
(これは特に問題なく親族の方が相続したそうです)。
しかし、失われた30年を築いてしまった私たち現代人が今、本当に注目しなくてはならないのは
「なぜ老夫婦は大きな富を保持していたにもかかわらず、日々コツコツと働き、お金なんてまるでないのかのように生活し続けたのか?
跡継ぎもいないのに、なぜ最後まで贅沢をしようと思わなかったのか?」
という点のほうだと思います。
実は、現代人の感覚よりも、この老夫婦の感覚の方こそが、日本文化的なお金との向き合い方なのです。
なぜか聞かなくなった「メザシの土光さん」
土光敏夫という方をご存知でしょうか?昭和に活躍した経済人です。
土光敏夫は石川島播磨重工業や東芝の社長のあと経団連会長や第2臨調会長と次々難しい仕事を引き受け実績を残す一方、その質素な生活ぶりで「メザシの土光さん」としてつとに知られており、経済界のみならず政界からも戦後最も尊敬されたリーダーの一人といってもいい人物である。
https://sasakitsuneo.jp/leader/01.html
明治生まれの土光敏夫は1988年、バブル経済真っ只中の時期になくなっています。戦後日本を世界2位の経済大国まで押し上げた人物の一人です。
「メザシの土光さん」と呼ばれたのは、土光敏夫が成功者になってからもメザシを食べるような生活をしていたからでした。
昭和当時の年収5千万円で、月の生活費10万円以下の生活をしていたという記事もあります。
土光の住んでいた家は日本が太平洋戦争に突入する寸前に建てられたものでわずか3部屋しかない平家建て。この小さな家に石川島播磨重工業社長、東芝社長、そして経団連会長になっても50年近く住み続けた。(略)
東芝の社長になったときはトイレ・バス付の社長室を撤廃し、役員の個室を4人部屋に変え、出張での付き人は無し、社用車は止め電車通勤を通した。
こうした土光の考え方は、母親の性格や躾によるところが大きく母親のいう「個人は質素に、社会は豊かに」を生涯通した。https://sasakitsuneo.jp/leader/01.html
昭和の成功者がみな土光敏夫のような生活をしていたわけではないです。しかし「世界有数の経済大国」だった当時の日本はこうした人物を賛美する社会ではありました。
ソニーの創業者井深大も「今の日本で最も尊敬できる人は誰かと聞かれれば、無条件に土光さん」と絶賛している。
「清貧と復興」出町譲
死ぬまで2億円に手をつけなかった大金持ちと、土光敏夫。
昭和を知らない世代は、彼らが何を考えていたのか、さっぱりわからないという方も多いのではないかと思います。
彼らは貧しい生活が好きだったわけではありません。ただ、お金に精神を囚われることを嫌ったのです。
この時代にはまだ存命者が多かった、伝統的な日本文化を引きつぐ”上質な人々”はお金があろうとなかろうと自己の精神が変わらないことを美徳としていました。
求めたのは虚栄心はもちろん、達成感にさえ惑わされない不動の心です。
精神>>お金だったのです。
貧しい日本にはびこる「イメルダ夫人的」大金持ち
フィリピンが生んだセレブ イメルダ夫人
イメルダ夫人は主に1970年代に活躍したフィリピンのマルコス大統領の妻です。
若い頃は美貌の持ち主でした。夫の成功とともに世界的なセレブの仲間入りをしました。
イメルダ夫人は非常に贅沢好きな女性でした。
80年代には恥知らずで低俗な浪費を指す「イメルディフィク(imeldific)」という言葉さえ生んだと英語版wikiにはあります。
とりわけフェラガモやシャネルから自国ブランドに至る3000足におよぶ靴のコレクションが有名です。
靴だけでなくボッティチェリやラファエロ、モネなど西洋絵画もコレクションしていました。マニラの宮殿やハワイには宝石のコレクションもありました。
マンハッタンにビルを購入したこともあり、そのうちの一つは現在トランプ氏のビルになっているそうです。
「自分がどれぐらい大金持ちか自分で知っている人は、大金持ちではない」
「貧乏なフィリピン人たちにスラム出身のスターがいるという夢をみせるために、わたしは美しく見えなくてはならない」
全盛期、彼女はこうした言葉を残しています。
一方で彼女は当時のアメリカのセレブ層と親しい付き合いがありました。聖公会信者のヘンリー・フォード2世の妻は友人の代表格でした。レーガン大統領夫妻とも家族ぐるみで親密でした
80年代半ばになるとイメルダ夫人は国家資金の横領を追求された夫の失脚にともない、アメリカに亡命することになります。当時はアメリカに裏切られたといった由のことを口走ることもあったと日本版wikiにはあります。
しかしフィリピンに戻った後は、国会議員に複数回当選するなど、ふたたび成功者に返り咲きます。現在91歳です。
国を豊かにすることがない「イメルダ夫人的」大金持ちの特徴
フィリピン国民が彼女に深い怒りを持たないのは、彼女が「現代のローマ=アメリカの属州」に非常によくあるタイプのお金持ちだからかもしれません。
以下の典型的な特徴をもっています。
- お金を持っていること自体がアイデンティティである
- 浪費自慢をして承認欲求を満たすことが好きである
- 自分より貧しい人々に憧れられたいと思っている
- アメリカやヨーロッパのブランド品の購入や、投資を行いたがる
- 文化活動や慈善にお金をばらまき称賛されることが好きだが、自ら手足を動かして継続的に人と向き合おうとはしない
孫さん三木谷さんから人気ユーチューバーまで、今の日本はこうした「イメルダ夫人的お金持ち」だらけだと、多くの方が気づくのではないでしょうか?
むしろ30代以下の若い日本人だと、こうした大金持ちしか知らないかもしれません。
彼らに対して「たくさん消費するのだからいいじゃないか。資本主義に貢献している」などと肯定する意見もありますね。
でも、私は全くそうは思いません。
このタイプのお金持ちはアフリカやラテンアメリカの元植民地の富裕層の多くにあてはまり、彼らが仕切る国はずっと貧しさから這い上がれないからです。
フィリピンもそうですね。「スラム出身のスター」を自称したイメルダ夫人が活躍した後のフィリピン経済は落ち込み続け、未開の国と見下していたインドネシアにも抜かれてしまいました。
(関連記事:「白人の真似ばかりの国 フィリピンは日本の未来か?」)
イメルダ夫人と夫は贅沢の傍ら、フィリピンの国内産業の育成や自国文化の保護にも貢献しましたが、そんなことは焼け石に水でした。
車の窓から人々にお金を施すイメルダ夫人
似たような貧困国 似たような大金持ち
お金にとらわれ、お金をもっていることが最大のアイデンティティになっている人たち。彼らは古代ローマでいう「奴隷のお金持ち」なのでしょう。
(古代ローマにいた裕福な奴隷とは⇒「「現代のローマ帝国」アメリカと敗戦国日本」)
この話題の前回記事「今の日本人は日本人ではない。「現代のローマ帝国」アメリカの属州とは?」までにおいて、以下のようなことを述べてきました。
- アメリカでは自国と古代ローマの歴史とを重ねる考えがメジャーである
- アメリカに敗戦した日本やフィリピン、中米の国々は古代ローマの属州(領土だが本土でない地域)に相当する
- 属州の民は世代交代が進むほどローマ=アメリカの文化的影響を強く受けて育つ
- ローマ化が進行し独自文化を失うほど属州は貧困化する
- 日本が貧しくなったのもまた、ローマ化が進んだ結果である
アメリカでは白人同士の間にも大きな格差があり、その源にあるのが移民時期の違う2種類の白人の家系だということは過去記事「なぜアメリカの真似をする国は失敗するのか?理由は2種類の白人たち」で取り上げました。
白人で裕福であってもルーツの浅い人はアメリカというローマでは「奴隷」の身分です。スティーブ・ジョブズであってもね。
アメリカのマスコミはこうした自国の成り上がり富裕層=奴隷の成功者をちやほやします。
それを視聴する民のほとんども一般大衆≒新移民=古代ローマにおける「奴隷」です。奴隷に向かって「奴隷が目指すべきモデル」をプロパガンダしてるのです。古代ローマにおいて、経済活動を主に行ったのは奴隷でした。
(関連記事:「「現代のローマ帝国」アメリカと敗戦国日本」)
現代のローマ=アメリカからみて、「属州」である敗戦国の日本やフィリピン、中米の国々も同じです。
属州の人々もまた、憧れのアメリカの成功者モデルとして「奴隷のお金持ち」ばかり見せられます。そして彼らのことを「資本主義的」「欧米先進国的」だと信じ、同じようになろうと努めます。結果、世界のあちこちの国で同じようなお金持ちが増えていくというわけです。彼らを抱える、同じように格差が激しく貧しい国も。
真の支配層であるアメリカの貴族層=旧移民/バラモン階級に当たる人々は、なぜか大衆向けマスコミの前にあまり姿を現しません。
そこはやはり、どこの馬の骨ともしれない人々には一番大切な部分を見せないという「移民国家」アメリカの知恵なのでしょう。
(関連記事:「ディープ・ステートはあるのか?アメリカ国民も認めるカースト制度」
「聖公会 そして日本人と交わらないアメリカ上流階級の正体」)
世代交代が進むほど深まる「アメリカの属州化=ローマ化」から抜け出し、「イメルダ夫人」を減らし、日本本来のお金持ちを再び増やしていかないと、日本も他の属州と同じように貧しさがひどくなる一方の未来になるでしょう。
「世の中が大きく変わったから、今の政治や世相については何も言えない。ただ、世の中が豊かになるに連れ、お金が人を狂わせるようになってしまった。親父は何があっても変わらなかった」
土光敏夫の息子 陽一郎氏の言葉 SAPIO 2016年10月号
https://en.wikipedia.org/wiki/Imelda_Marcos
https://sasakitsuneo.jp/leader/01.html
https://rappler.com/newsbreak/in-depth/imelda-marcos-shoes-mixed-legacy
https://www.quoteikon.com/imelda-marcos-quotes.html
https://www.youtube.com/watch?v=_loxS2KkmHM
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