目次
- なぜ中国が終身雇用制度に詳しい?昭和の財界人と改革開放
- 中国百度で知る日本の終身雇用制度
- 終身雇用制度を始めたのは松下幸之助
- 中国百度が挙げる 日本の雇用制度の特徴
- 1.卒業後、企業に採用された人物は多様な仕事をこなさなくてはならない。専門にかかわらず、全員が初級の仕事から始めることになる
- 2.昇進、昇給の基準は企業内における勤務時間の長さによる
- 3.社員は企業のために忠誠を尽くし、企業は社員を長期雇用し、優遇待遇を提供する契約を結んでいる。 企業は一般的に、社員が会社のルールに違反したり、重大な事故を起こしたり、自発的に辞表を提出しない限り、退職まで解雇することはない。社員の仕事の効率が悪かったり、仕事に適任でなかったとしても、同じである
- 4.日本企業は社宅制度、社内割引制度、共済制度、各種手当、教育・教養施設などの福利厚生を通して、「家庭的」温情を社員に提供している
- 終身雇用制度にみられる日本の企業文化
- 今の日本は終身雇用を終わらせるときでなく、その精神を振り返るとき
現在、日本において終身雇用制度は、利害や損得の視点で語られることが多いです。それは、わたしたちのほとんどが終身雇用制度を、当事者の立場で見ているからでしょう。どちらかというと時代遅れとして否定されがちな制度ですね。
一方、中国の検索サイト百度にある「終身雇用制」のページは、その発祥や理念などが客観的によくまとまっていて、興味深いものになっています。
今回はその中国百度を抜粋しながら、少し離れた視点で終身雇用制度を考えてみます。
なぜ中国が終身雇用制度に詳しい?昭和の財界人と改革開放
中国の改革開放後、日本の財界はその経済発展をサポートすることになりました。
(関連外部リンク「NHK BS1スペシャル「中国“改革開放”を支えた日本人」)
当時の日本の大物財界人たちは、中国の政治家や中国企業と結びつきを持つようになりました。
中国側も彼らから積極的に学びました。
つまり中国は、高度成長期~バブルに至った、戦後もっとも成功した時期の日本を研究したというわけです。
現在、中国において、松下幸之助、盛田昭夫、本田宗一郎、稲盛和夫の四氏は、経営四聖(经营四圣)とされています。
また2018年に行われた中国共産党の改革開放40年セレモニーでは、松下幸之助がシンガポールのリー・クアンユーらと共に、中国の改革開放に貢献した外国人として表彰されたそうです。
(関連記事:「不景気しか知らない世代こそ見てほしい 日本に勝った先進国シンガポール」)
中国百度で知る日本の終身雇用制度
終身雇用制度を始めたのは松下幸之助
現在につながる終身雇用制度を始めたのは、パナソニックの創業者である松下幸之助であるとされています。意外にも、日本ではあまり知られてないことですね。
戦前の1918年に松下電器(現パナソニック)を創設した幸之助は
”松下の社員は定年に達するまで失業の心配はない、企業は松下の人間を絶対に首にしない”としたそうです。
松下幸之助は9歳から丁稚奉公をしていた人物です。丁稚制度は江戸時代から日本にある雇用制度で、終身雇用の原型の一つと考えられているものです。
幼いうちに親元を離れ、丁稚として商家に住み込みで働き、成長とともに手代、そして番頭の役職へと出世するという仕組みです。
番頭や有能な手代になると、婿入りや養子縁組の形で商家の主人にまで出世することも多かったといいます。暖簾分けが許されることもありました。
叩き上げ社長の原型みたいなものでしょうか。
英語版wikiのpermanent employmentのページでも、日本の終身雇用制度は日本の文化が生んだ、独自の制度として紹介されています。
戦前に生まれたこの制度に、敗戦後にアメリカによって導入された労働者の権利を加えたものが、現在の終身雇用制度ということでしょう。
中国百度が挙げる 日本の雇用制度の特徴
1.卒業後、企業に採用された人物は多様な仕事をこなさなくてはならない。専門にかかわらず、全員が初級の仕事から始めることになる
2.昇進、昇給の基準は企業内における勤務時間の長さによる
3.社員は企業のために忠誠を尽くし、企業は社員を長期雇用し、優遇待遇を提供する契約を結んでいる。
企業は一般的に、社員が会社のルールに違反したり、重大な事故を起こしたり、自発的に辞表を提出しない限り、退職まで解雇することはない。社員の仕事の効率が悪かったり、仕事に適任でなかったとしても、同じである
4.日本企業は社宅制度、社内割引制度、共済制度、各種手当、教育・教養施設などの福利厚生を通して、「家庭的」温情を社員に提供している
「主人」と「しもべ」で成り立つ欧米の労使関係の哲学とは、大きく違うといえるでしょう。
(関連記事:「不況の源?経営コンサルタントは日本に不要な存在か」)
終身雇用制度にみられる日本の企業文化
1.忠誠
社員と会社の関係は、とても重々しいものです。企業は社員に温情を与え、現実的な生活を世話をします。社員は仕事を神聖なものとし、生活の保障とします。新入社員から管理職まで、会社に忠誠を尽くすという点では一緒です。忠誠を示さない社員がいると非難されます。
2. 団結
社員は、企業をより発展させ強くするという共通の目標のために努力します。全員が個人の損得やヒーロー願望を抜きにして、協力しあいます。栄誉も罰もグループで共有するものであり、誰のものでもありません。
3.「企業は家」
終身雇用制度は家族制度が発展したものです。企業は社員に深く情を注ぎ、家族のように関わり、福利、医療サービス、ボーナスなどを提供します。
社員は企業に忠誠を尽くし、入社すると一般的に数十年間働きます。そして、社内での人間関係を深め、義理を重んじる雰囲気ができます。
この時代の人々は個人がヒーローになることより組織を重視しましたが、今の日本はヒーローになりたがる人であふれています。
今の日本は終身雇用を終わらせるときでなく、その精神を振り返るとき
終身雇用制度が一般的になった理由として、現在の日本のネット上では、高度成長期の時代、労働力確保のために、労働者を引きつける良い条件として広まったという説がよくみられます。
一方、中国百度では、終身雇用制度は戦後の日本の経済が低迷した時期に強固になったとあります。
そして、その制度によって企業が戦後の混乱を乗り越えて安定し、高度成長期へのはずみがついたとあります。
さて、
現代を生きる日本人による見解と、
改革開放後、1980-90年代の日本の経済界から多くを学んだ中国の百度の見解・・・
どちらが事実に近いと思いますか?
昭和を覚えてる世代の一人である私は、案外、中国側の方が事実に近いのではないかと思います。
なぜなら、この時代を生きていた人たちは、戦争を体験しているからです。
彼らは、たとえ今が好調でも、すべてが暗転して焼け野原になる可能性を知っていました。
目先の好景気に踊らされて、労働者を定年まで家族のように面倒みる約束をするというのは、この時代の経営者にしては見境がない判断でしょう。
それに雇用される側も、労働者不足だけを理由に終身雇用をぶらさげられても、なかなか信じる気になれなかったでしょう。好調なときに気前のいいことを言うのは簡単です。
苦境の時代も変節しなかった過去を知っていたからこそ、多くの人が終身雇用制度を信じて、社員になりたがったのでしょう。
幸い日本には終身雇用制度があったので、社員は全力で会社のために尽くしました。それがなければ、日本の戦後経済はすぐに回復できなかったでしょう。
考えてみてください。不景気のとき、もし企業が人員削減をしていたら、社員は自分の立場を心配して一日中怯えて、職務をきちんと果たせないでしょう。そのような状態では、企業の発展はもちろん、企業の存続そのものが危ないでしょう
現代の日本の経営者は周りから無能と呼ばれるのを恐れ、業績や数字を上げることで頭がいっぱいです。高偏差値の優等生というアイデンティティを持つ大手企業の重役ほど、そうですね。
しかし、戦後の日本では誰もが、他人からの評価なんかより、明日を無事に生きていけるかが課題でした。
多くの人が、戦死した人、空襲で重度の怪我を負った人、戦地でかかった病の後遺症に苦しむ人などを身近に知っていました。貧困が死につながることも、珍しくありませんでした。
・・・これ以上、人を死なせたくない。
労も使も、この気持ちは一致していたでしょう。
だからこそ、経営者たちは戦後の経済不況の下で、終身雇用をやめるどころか、強固にしたのではないでしょうか。
社会全体が貧しく不安定だった戦後の中で、終身雇用を続けた経営者たちは、大変勇敢だったと思います。
彼らが率いた昭和日本が、世界二位の経済大国にまでなれたのは、彼らがそれにふさわしい経営者たちだったからでしょう。
http://www.mutsucci.or.jp/kaiho/pdf/kai151.pdf
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%95%86%E5%90%9B%E6%9B%B8
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