「出る杭は打たれる」という言葉は、ほとんどの方がご存知でしょう。
人よりも抜きん出た才能があったり、 突出した実力がある者は周囲から羨みと嫉妬の対象になりやすい、結果、周囲に邪魔され潰されてしまいがちである・・・といった意味で使われる言葉ですね。横並び志向とともに語られることが多いです。
失われた20年の間、日本を覆ってきた閉塞感の原因といわれることもあります。
さて、これとそっくり同じ意味の言葉が、フィリピンにもあるのをご存知でしょうか?
「クラブ・メンタリティ(crab mentality)」といいます。
日本語にすれば「蟹の根性」といったところでしょうか・・・
フィリピンの漁場では竹で編んだ籠のなかに水揚げしたカニを入れておく慣習があります。カニを一匹だけおくと、カニはすぐに籠から逃げてしまいます。
しかし籠のなかに多くのカニを入れておくと、一匹のカニが逃げようとしたとたん、他のカニが抜け駆けはゆるさないとばかりに、そのカニの足を挟んで邪魔をします。結果、カゴから逃げることのできる蟹はいなくなるというわけです。
こうした蟹の行動にちなんで、成功しそうな人、才能がある人を、本来協力できるだろう似た立場の周囲の者が妬んで邪魔する精神を、クラブ・メンタリティというのです。
クラブ・メンタリティをもっともよく説明する言葉は以下である
"if I can't have it, neither can you"
「私が手に入れることができないことは、他のひとにだってできない」英語版wiki crab mentalityより
たとえば昇進しそうな同僚の欠点を上司に影で告げ口したり、
何か新しいことを始めようとする人に対して「そんなことしても無駄さ」なんて言葉をぶつける人が、クラブ・メンタリティの持ち主だとされています。
「クラブ・メンタリティ」は英語圏で、フィリピンの国民性をあらわす言葉として広まっています。
「こうした嫉妬はどこの国の民にも存在する」といった擁護の声もありますが、あまり共感は得られていないようです。
フィリピン人に対して「陽気で親切で家族思い」といったイメージを抱きがちな日本人にとっては、ちょっと驚きですね。
もとは違う意味だった?「出る杭は打たれる」
「クラブ・メンタリティ」の同義語である「出る杭は打たれる」。語源を調べると、以下にようにあります。
「同じ高さに杭を打ったつもりなのに、一本だけ高く出ていたら、それを叩いて高さを合わせるから」
この語源をみると、出る杭は周囲の同類ではなく、部外者から打たれて凹まされるわけですね。
「目立った行動をすると、外部(敵)に攻撃されやすくなるから気をつけて」というニュアンスです。「雉も泣かずば撃たれまい」の同義語です。
そして、これと近い言葉ならば、他の国々にもあります。
中国なら
「樹大招風(樹木が大きいほど風から受ける影響が大きい)」
フランスやトルコでは
「人は、実がぎっしりなっている木にだけ石を投げる」
「実のなっていない木には、人は石を投げない」
・・・やはり、周囲から嫉妬され、足を引っ張られて、うまくいかなくなるという内容ではありません。
「出る杭は撃たれる」の語源がフィリピン寄りでなく、他の国々と共通してるのは、
「この言葉が生まれた当時の日本にはクラブ・メンタリティ的なものは存在しなかった」
または
「あっても現代日本ほど強烈ではなかった」ということではないでしょうか・・・
「出る杭は撃たれる」を、農耕時代にさかのぼる日本人の負の文化だとする意見をみることがありますが、それは間違いかもしれません。
私の体感でも、昭和の時代、「出る杭は撃たれる」は、今ほど多くは聞かない言葉でした。
実際、当時の日本社会がそんなだったら、多くのアイデア商品、ブランド、世界企業を輩出する経済大国になることはなかったでしょう。
現在、日本で「出る杭は打たれる」は二種類の意味で使われてると思います。
一つは従来の「目立つものは外部から攻撃されやすくなる」という意味、
もうひとつは嫉妬を主な動機とする「クラブ・メンタリティ」な意味です。
たとえば、かつて派手な行動をしていたホリエモンこと堀江貴文さんが逮捕されたりしたのは、堀江さんを敵視する外部の人たちによるものなので、前者でしょう。
一方、上司が部下のアイディアの粗捜しをして取り合わず、結局、他社が似たアイディアの別商品を出してしまった・・・なんていうのは後者ですね。
ルンバが出始めた頃「掃除ロボットの案は日本の家電メーカーでもかつて出たけれど、上が否定して、だめだった」なんて話をネットで見たことがあります。
「出る杭は打たれる」クラブ・メンタリティの背景
アメリカの大手掲示板redditのスレッド「どうして大多数のフィリピン人はクラブ・メンタリティの持ち主なのか?(Why do most Filipinos have a crab mentality?)」によると、黒人コミュニティの間にも、クラブ・メンタリティに近いものが存在すると指摘されています。
現代日本人、フィリピン人、そしてアメリカ黒人の間に共通するものとは、何でしょう?
それは、目標や理想が自分たちの文化のうちではなく、外部にあると信じている点ではないでしょうか?良いものや正しいものの基準を決めるのは、自分たちではなく、別の民族だと思っているのです。
「白人の真似ばかりの国 フィリピンは日本の未来か?」でとりあげましたように、フィリピンは世界一の親米国です。アジアでもっとも西欧化が進んでおり、それを誇りに思う民も多い国です。
フィリピン人らしさを追求するより、より欧米人に似ることを目指す傾向がみられます。
(関連記事:「白人との混血ぶりを自慢したがるフィリピン人に世界の反応が辛辣」)
アメリカ黒人は歴史的背景からして、そうでしょう。何世紀も前から、異人種である白人の作ったスタンダードこそ、目標とすべきものと教えられてきました。それ以外のモデルが見つからないぐらいです。
日本人も、戦後生まれの大多数は、アメリカやヨーロッパの文化ばかり学び、欧米先進国こそ手本にするべきと考えている。同じですね。
このような「出る杭が打たれる」自国を嫌い、海外に夢をいだきがちな日本人も多いです。
(参考外部記事:「出る杭が打たれる社会では、若者たちがどんどん海外に流出してしまう」 会議Hacks )
そして、上で引用したredditスレッドによると、フィリピン人も同じ理由で海外をめざす傾向だそうです。
過去記事「経済大国を作った戦前世代、失われた20年の戦後世代 」で取り上げましたように、戦前教育世代が定年退職し、戦後世代が日本の労働者のほとんどを占めるようになった時期と、失われた20年の開始時期は重なります。
基本的に、戦後世代は戦前教育世代よりも欧米崇拝が強いですね。
そして「失われた20年」の原因として挙げられるメンタリティが「出る杭は打たれる」・・・フィリピンの「クラブ・メンタリティ」と同じものなのです。この点は、ちょっと、ぞっとさせられます。
フィリピンが教えるクラブメンタリティを持つ人の10の特徴
「出る杭は打たれる」メンタリティを変えるには、現代日本人の意識の根本的な変化が必要かもしれません。
とりあえず、現時点での参考として「クラブ・メンタリティを持つ人の10の特徴」は以下になるそうです。
(フィリピンサイトFAQ.phより)
1.プライドが高く、他の人を劣った存在のように扱う
2.同僚や仲間が幸福になったり、好調だったりすると、パニックに陥る
3.人生のモットーは「自分が手に入れられないことは、他の人もできないことだ」
4.自分のことはポジティブにとらえ、他の人のことはネガティブにとらえる
5.同僚や仲間が失敗したとき、彼らを助けるよりも失敗を責める
6.同僚や仲間に対し競争心がある
7.同情心というものを持ち合わせてない
8.なんでもわかっているように振る舞う
9.アイデアや解決方法より、他人について語ることに多くの時間を費やす
10.決して自分をクラブ・メンタリティの持ち主だと認めない
・・・いかがでしょう?
このクラブ・メンタリティ。フィリピンの長期に渡る植民地化の歴史が生んだ「植民地根性(colonial mentality)」のひとつと解釈する人たちもいます。
日本人は、他アジアと違って植民地になったことがない歴史を誇る傾向がありますね。
しかし「名目上はそうだけど、文化的にはどうなのか?」と問われると、口ごもる人も多いでしょう。私達の身の周りにあるものは、元植民地のフィリピン同様、欧米文化のコピペばかりです。
「出る杭は打たれる」は日本人の昔からの国民性だと、開き直っていた人たちも、それが「植民地根性」だとなれば、速攻で改めてくれるかも??
https://ceburyugaku.jp/74783/
https://answers.yahoo.com/question/index;_ylt=Awr4zV9kMxdcQVAAb.tXNyoA;_ylu=X3oDMTByNWU4cGh1BGNvbG8DZ3ExBHBvcwMxBHZ0aWQDBHNlYwNzYw--?qid=20070130211057AAwijEZ
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