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ラテンアメリカは先進国にはほど遠い
北アメリカ大陸に属する二国、アメリカとカナダに対して、哀れみや援助が必要だと思う人はあまりいないでしょう。
二国とも世界から先進国と目されており、多くの外国人にとって憧れの地です。移民からも人気がありますね。日本でもアメリカ、カナダへの移住を夢見る人は少なくないでしょう
一方、同じアメリカ大陸に属していても、アメリカ合衆国より南に位置するメキシコ~南アメリカ、いわゆるラテンアメリカを先進国と考える人はあまりいません。
アメリカ移民のうち単純労働を担うことが多いヒスパニックと呼ばれる人たちはラテンアメリカから移住してきた人たちです。低賃金で働く不法移民も多く、アメリカの繁栄を影で支えています。
学歴社会であるアメリカに移住しても、ほぼ貧しい生活しか待っていないのに、彼らは絶えることなくやってきます。アメリカの慈悲を期待して、子供だけで旅立たせるケースも少なくありません。南の国境を越えようとする中南米人の多さは、トランプ氏が大統領になれた理由のひとつでもありますね。
北アメリカだけでなく、日本にも南米から、日系人、またはそう名乗る人たちが出稼ぎにやってきます。
それほど、彼らが生まれた国の貧困と破綻ぶりはひどいのです。
前代未聞だったリオ・オリンピック
ラテンアメリカの現実は、リオ・オリンピック時の混乱にも垣間見えますね。
開催されたブラジルはBRICSの一角であり、将来の先進国入りを期待する声もあった国です。ラテンアメリカ内では上位の国にあたるでしょう。
それでも、オリンピック用の施設はギリギリまで完成しませんでした。競技用プールが一晩で変色したニュースは世界を驚かせました。あまりの治安の悪さ、不衛生さを知り、日本のマスコミも渡航を躊躇したというニュースもありました。本当に前代未聞のことだらけでした。
裕福な外国人客のブラジル訪問に期待する売春婦が、開催前から街頭にあふれたという英語ニュースもありました。中南米は売春宿が多い地域として世界的に知られています。商品とする女性の調達を目的とした誘拐事件も多いです。
また、中南米は整形手術が世界で最も多い地域ときいたこともあります。多くの人が、より白人に近い容姿を求めて整形するそうです。
白人の遺伝子だけでは先進国にも文明国にもなれない
北アメリカも、南アメリカも、同じ時期に同じヨーロッパ人によって開拓された国です。それが、なぜ、こうも違う結果になったのでしょう?
北アメリカに進出したのは主にイギリス人、メキシコおよび南アメリカは主にスペイン人でした。
ブラジルに進出したポルトガル人も、スペインのやり方に近い支配を行っていたといわれています。当時のポルトガルはスペイン王の支配下になった時期があるせいかもしれません。
これらイギリス、スペインといったアメリカに進出したヨーロッパの国々は、日本では世界に植民地を展開した西洋列強という枠で、一緒くたに語られてしまうことが多いですね。
しかし、南北アメリカに住む人たちにとって、イギリスとスペインの支配が生んだ差は議論されることの多いテーマです。当事国からしたら、当然かもしれません。
ラテンアメリカの人々は白人の遺伝子が強い
私が通った高校の社会の教師はこう教えていました。
「原住民と白人の混血を避けたのがアングロアメリカ(北米)、混血を進めたのがラテンアメリカ」だと。
基本、これは間違いではありません。
遺伝子調査によると、メキシコ人の遺伝子の65%、ブラジル人の遺伝子の40%強は白人由来だとされています。いわゆるメスティーソです。
初期に北米に移住した者たちの主な理由はプロテスタント信仰でした。信教の自由を求めて新大陸を目指した彼らは、多くが家族ぐるみで移住していました。
一方、スペインは新大陸に独身の女性が移住することを禁じていました。そのため、独身の冒険者や開拓者の多くが原住民の女性と関係を持ったのでした。
同じスペインの植民地でも、白人との混血が少ないフィリピンとはだいぶ事情が違いますね。
にもかかわらず、ラテンアメリカの多くの国の国際的な地位はフィリピンとさほど差がありません。
かつて、白人と日本人を混血させることによって、日本民族を改良したいと考えた福沢諭吉の盟友、井上馨が知ったら、がっかりしてしまいそうな現実です。
(関連記事:「白人との混血ぶりを自慢したがるフィリピン人に世界の反応が辛辣」)
現在、世界で経済的に繁栄している地域の民の多くが、ローマ文明と黄河文明にルーツを持つことを考えると、文明の発展と遺伝子が全く関係ないとはいえないかもしれません。
日本も、そのひとつですね。天照大神など神道の神々が記さてれる日本書紀さえ、中国語で書かれています。
しかし、だからといって、遺伝子だけでは先進国にも文明国にもなれないのです。
アメリカ大陸の北と南の格差は、白人崇拝の強い日本人が気づかない、そんな現実を突きつけているかもしれません。
※ちょっと脇道にそれますが、日本のwikiのメスティーソのページでは、フィリピンでは先住民と中国人の混血をメスティーソと呼ぶことが多いとしています。しかし、英語版のwikiにはそうした記述は見当たりません。英語版では、フィリピンのメスティーソは原住民と他人種との混血をさすが、対象は主に白人であるとしています。
英語圏より日本のほうがこの問題に詳しいってことあるのでしょうか?「シノワズリ ヨーロッパで中国が先進国だった時代」で触れたヴォルテールの件といい、日本のwikiの中国関係の記述は、ときどき謎があります。
さて、話を戻して、スペインとイギリスの植民地支配の差をみていきましょう。
人種も文化も統合したスペイン
メスティーソを生んだエンコミエンダ制
スペインの植民地では征服者がその地域の原住民を使役させ、貢納物をとってよいとするエンコミエンダ制をしいていました。
原住民たちは征服者の下で一方的に搾取される奴隷のような状態になりました。
しかし、白人と混血して生まれたメスティーソは、その身分から逃れることができました。白人との混血の程度が社会的地位に結びついたのです。
そのため原住民の多くが先祖伝来の文化や言語を捨て、メスティーソを名乗りたがりました。富裕な者は先祖にスペイン人がいると主張するために、素性をいつわったり、家系を買ったりもしました。
メキシコでは原住民たちが征服者に女性をさしだしました。スペイン人は彼女らを側女にし、ハーレムのような状態になりました。
スペイン人にとっても、原住民にとっても、混血は普通のこととなり、人種の統合が進みました。
最終的にはスペイン語を話し、自分をメスティーソだと名のる者は、みなメスティーソに分類されるようになりました
カトリック信徒を増やすことで宗教改革に対抗
15世紀から始まった宗教改革によって、ヨーロッパではプロテスタント勢力が力を増していました。
カトリックの国、スペインとポルトガルは、植民地支配した地域の原住民をカトリックに入信させ、信徒数を増やすことで、プロテスタントに対抗しようとしました。
中南米やフィリピンにカトリック信徒が多いのはその結果なんですね。
ザビエルなどの宣教師が日本含むアジアにまでやってきたのも、そのためとされています。
豊かな資源に依存した植民地運営
スペインの支配した地はアステカ、インカ文明のあった地であり、金はじめ豊富な地下資源がありました。
そのため、スペイン人たちはその資源を接収することに最も力を入れていました。
加えて恵まれた気候と原住民の労働力を生かした大規模農業も行っていました。しかし、工業化はあまり進みませんでした。
白人のための植民地を貫いたイギリス
徹底した人種隔離主義
原住民にあがめられ混血を進めたスペイン人と違い、イギリスから北アメリカにやって来た白人たちと、原住民の関係は平行状態が続きます。
初期にイギリスを離れアメリカに移住した者の多くは、ピューリタン(清教徒)やクェーカー教徒など、信教の自由を求めた人たちでした。イギリス国教会の迫害を逃れ新天地をめざした彼らにとって、富は二の次でした。
(関連記事:「なぜアメリカの真似をする国は失敗するのか?理由は2種類の白人たち」)
カトリックではなく、プロテスタント側なので、原住民をキリスト教に改宗させることにも熱心ではありませんでした。
彼らは原住民と部族ごとに和平を結んだり、戦ったりを繰り返し、次第に勢力を伸ばしていきました。そして農作業用にアフリカから黒人を連れてきます。混血を避け、人種統合しないまま、周囲に異人種を増やしていくうち、白人のうちには激しい人種差別意識を持つ者もでてきました。
(参考記事:「アメリカのナチズム!日本人仰天な米国の黒歴史)」)
それでも、北アメリカの白人たちは自分たちのことを、スペイン人より人道的にましであると考えていました。
南ほど豊かでない地下資源
北アメリカは日本と比べれば資源の豊かな地域です。けれどもスペイン人の支配したラテンアメリカ地域ほどではありませんでした。そのため、北アメリカでは農業に加え、工業にも力を入れる必要がありました。
その当時の尽力が、現在の先進国アメリカ合衆国の礎になっているともいわれています。
どこまでも亜種の国
ラテンアメリカの大半で多数派を占めるメスティーソは、遺伝子的には私たち東アジア人よりはるかに「白人」です。
彼らの先祖であるアメリカの原住民は、自分たちに代々伝わる伝統や美徳を価値の低いものとしてなげうち、文化も、血筋も、ヨーロッパ人に近づこうとしました。
前回記事「なぜアメリカ人やイギリス人はイノベーション力が豊かなのか」で紹介した、アメリカ合衆国内にみられるような人種、民族ごとの文化格差は少ないでしょう。その代わり、独自のものも少ない・・・
結果、ほぼすべての国がうまくいっておらず、北アメリカのような先進国に依存する状態です。それでも、現在もラテンアメリカの多くの国では、白人に近い外見の者が優遇され、原住民の血が濃い人々は僻地で過酷な生活を送っている現状です。
文化とは実は統一すべきでないもの?
もしかしたら、文化というものは、絵の具のようなものかもしれません
さまざまな色をもつ絵の具をすべて混ぜると、たった一つの色の大量の絵の具ができる。
けれど、その一色しか使えず、その後の可能性は限られてしまう。
そして混ぜてしまったものは、もう元にもどすことができない・・・
一方、混ぜないで別々に管理しておけば、いろいろな色の調和を楽しむことができる。絵の具の種類が増えるほど、可能性も広がる・・・
日本もまた、明治以降、西洋文明の後追いを続けてきた末に、現在、行き詰っています。
明暗を分けた南北アメリカの運命の歴史は、日本が今後とるべき道にヒントを与えるものかもしれませんね。
そして現在、ヨーロッパを悩ませてる移民問題への対応においても、同じことが言えるかもしれません。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mestizo
https://en.wikipedia.org/wiki/Race_and_ethnicity_in_Brazil
https://www.reddit.com/r/AskHistorians/comments/1x22ua/what_are_the_major_differences_between_the/
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