※前記事「海外からみた日本人によるアイデア商品」の続きです。
ここ数年、世界で難民問題が大きな課題となってますね。
特にシリア難民問題は、ヨーロッパの政治にも大きな影響をおよぼしています。
シリアといえば、日本人に人気があるアップルの創業者スティーブ・ジョブスは、シリア系のアメリカ人です。
(関連記事:「預言者ムハンマド直系の子孫!スティーブ・ジョブズとイスラム教」)
このため
「シリア人ならジョブスのような人がいるかもしれないから日本に迎え入れてもいい」
などとネット書き込みする人がたまにいます。
自国の20世紀での成功と先進国化をみて「日本人はアイデア力に富んだ民」と考えるようになった日本人ならではですね。
日本では多くの人が、日本人の優秀さは、日本人に生まれたゆえだと考えています。
私も日本に生まれ育ち、バブル期までの成功を見てもいたので、やはり長いこと、同じような考えをもっていました
―――けれど、果たして、どうでしょう?
・・・日本人からみて、「イノベーション力(技術革新力)の豊かな民」とはどんな国の人たちでしょう?
蒸気機関にはじまる産業革命を起こし、世界に機械文明をもたらせたイギリス人や
最新式の兵器、IBMやマイクロソフト、アップルを生み出したアメリカ人を思い浮かべる人が多いことでしょう。
実際、世界でもっともイノベーションを起こしている国は、アメリカですね。
そして、アメリカという国のベースを作ったのはかつての大英帝国、イギリスです。
この二国はノーベル賞受賞者も圧倒的に多いです。
彼らの発明した革新的な品々はあらゆる分野に及びます。
日本人が白人にはかなわないと思ってしまう理由のひとつともいえるでしょう。
もとは何もなかった国 イギリス
イギリスはアメリカが台頭するまで世界最強の国でした。かつて、その植民地は世界各地にあり、軍事力、科学技術力はすばらしいものでした。幕末の薩英戦争でも英軍は薩摩を叩きのめしましたね。
さて、そんなイギリスの発明と発見の歴史はどんなものでしょう?
前記事「海外からみた日本人によるアイデア商品」同様、英語版wikiで今度はイギリス人による発明、発見リストのページを見てみます。
・・・実は、イギリス人による発見、発明は15世紀まで、ほとんどありません。虫めがねぐらい。
大げさに言ってるのではなく、英語圏のwikiでの話です。
(参照英語wikiページ「イギリス人の発明、発見」List of British innovations and discoveries
「イングランドの発明、発見」List of English inventions and discoveries)
日本のページさえ、中世以前でも縄文土器や平安文学についての記載があります。中国のページなどは華やかなものです。
(リンク:英語版wikiによる中国の発明、発見リスト(List of Chinese inventions)」
このように無に近かったイギリスの発明、発見史は16世紀から記録が増えはじめます。
ちょうど海賊だった者たちの冒険が発展し、イギリスが大航海時代に乗り出しはじめた時期です。
そしてワットの蒸気機関、産業革命となり、ノーベル賞受賞者を大量に出すような華やかさになっていく。
つまり、イギリスのイノベーション力の豊かさは、大航海時代とほぼ同時に始まっているのです。
海洋国家イギリスは恐れ知らずに世界のあちこちに進出し、未知の民族や文化に遭遇し、彼らと交渉し、時には戦いました。
今の日本人は世界各地の自然風土の知識をあたりまえのように得ることができます。その知識の大部分は元来、こうしたヨーロッパの冒険者、開拓者、研究者たちの手によるものです。
イギリス船はアフリカ、インド、アメリカ、中国にも進出し、植民地を増やします。極東の日本にまでやってきました。
日本人は植民地化を征服のあかしのように考えてしまいがちですね。しかし、実際には各地の土着民たちとうまくやり、支配を長引かせることの方が征服事業よりもずっと知恵がいります。
こうした歴史を経て、他民族の性質や文化を研究、分析することはイギリス人の慣習になったといえるかもしれません。
過去記事「高度成長期の日本人が語る「禅」。英国BBCが映す40年前の日本の信仰」の中で、「The Long Search」というイギリスBBC製作のドキュメンタリーを紹介しました。
アメリカ、インド、日本、台湾、インドネシア、エジプトなど世界各地の宗教を取材した長編シリーズです。
日本だったら、豊かだったバブル期でも、こんなふうに異国文化を取り上げた深い番組をつくろうとはしなかったですね。
Youtubeを見ると、他にも海外文化、風土を取材したイギリス発信のドキュメンタリーは、とても多いです。
国民性なのかもしれませんが、イギリス人は外国の文化、風土に不思議なほど興味を持つ人たちです。異民族を自分たちの色に染めたがるより、知りたがるのです。
現在もイギリスは英連邦に属するさまざまな国の民のことを観察しています。
その一方で、イギリス人はやはり、イギリス人のままです。
先進国になるはるか昔から続くキリスト教信仰を保持し、クリスマスプディングを用意し、シェイクスピアを一般教養としてたしなんでいます。
異文化を知りつつ、イギリス人らしさを見失わないイギリス人。彼らは、今もイノベーション力の高い民として、世界で存在感を放っています。
いるだけで世界を知ることができる国 アメリカ
以前、ディスカバリーチャンネルでアメリカ各地の料理紹介番組を見たことがあります。日本向けに制作されたものではなく、アメリカ国内用の番組です。
日本人はアメリカ料理というと甘すぎたり、粗雑だったりというイメージを持ってる方が多いと思います。
しかし、そこで紹介されていたのは、羨ましくなるほど多様で面白く、おいしそうな料理ばかりでした。見終わった後は、日本の食文化が単調で貧弱に感じられてしまったほどです。
アメリカ料理の特徴は、アメリカという国の多民族性を反映していることです。つまり、各国の移民がアメリカへ持ち込んだ料理が独自の発展を遂げたというケースが多いのです。
アメリカでは出身国ごとに移民たちのコミュニティがあり、そこでは国ごとの郷土料理が作られ、レストランも多いといいます。
中華街やコリアンタウンのようなものの、フィンランド版やフランス版などがあるということです。
つまりアメリカでは、一つの国にいながら、世界各地の食文化が楽しめるんですね。
たとえば日本人にとって、アメリカ料理として一番に思い浮かぶのはハンバーガーでしょう。
しかしハンバーガーにはさんであるハンバーグは名前のとおり、ドイツ系移民の料理からきたものです
最近、日本でも有名になってきたアメリカの軽食エッグ・ベネディクトの考案者チャールズ・ランフォファー(Charles Ranhofer)はフランスからの移民一世です。
各国のいろいろな料理の発想の差を楽しみながら、アメリカの料理人たちはインスピレ―ションを受けてきたのでしょう。
日本人が眉をしかめる寿司のアレンジ料理、カリフォルニア・ロールも、アメリカでは当たり前におこる料理の進化なのかもしれません。
アメリカの移民コミュニティがもたらす外国文化は、もちろん料理だけではないでしょう。
アメリカ人は柔道も知ってれば、インド人が指導するヨガのブームも受け入れる。
漢方薬のことも日本人以上に知っている人が珍しくありません。
アメリカ人は、アメリカにいるだけで、いろいろな文化に触れることができるのです。
イノベーション力に豊んだ民とは?
アメリカ人がイノベーション力に富んでいるといっても、私たちが知るそうした人々のほとんどは、白人ですね。
アメリカで生まれ育っても、黒人や日系、中南米系などは白人に似ることを望む人が少なくありません。しかし白人は白人以外のものになりたいとは基本、望みません。
アメリカ白人たちは、自分たちの親から引き継いだアイデンティティを保ちながら、近くにいる移民が持ついろいろな価値観、発想、哲学の違いを目の当たりします。
そして自己を見失なわないまま、違う角度からものごとを見ることを当たり前に習得するのです。
18世紀、ライプニッツは易経を知って、二進法のヒントを得たといわれていますが、そんなことがアメリカでは頻繁に起きているのかもしれません。
(ヨーロッパで人気を集めた中国哲学とは?→「イエスズ会宣教師を逆に魅了したアジア人て誰?日本でもお馴染みのあの人 」)
日本人から見てどうかはともかく、英語版wikiの発明ページ上だと中国は発想力に富んだ民の国です。紀元前から多くの国と交流し、なおかつ中華文明を守ってきた国ですね。
また知識層、富裕層として世界から一目おかれている先進国のユダヤ系の民も、キリスト教徒に囲まれ、キリスト教文化の社会で育ちながら、違う価値観であるユダヤ文化を守るよう親から教えられます。
「イノベーション力豊かな日本人」は世代限定だった?
さて、日本がイノベーション力豊かな人材を最も多くはぐくんだ時代である戦後昭和はどうだったでしょう?
江戸時代までの日本人の発明は決して多くはありませんでした。
同じアジアの中国の膨大な発明品の数と比べると、貧弱です。
それが西洋文明を受け入れるとともに、発展していったのはよく知られていますね。
当時の日本人は西洋文化を受け入れつつも、教育勅語含む儒教、漢学といった伝統的な東洋文化もしっかり残していました。
特に英米との対立が深まる太平洋戦争前からは、より伝統的な教育を子供たちに施すようになっていました。
戦中までの教育を受けた世代は、先祖から引き継がれた日本人らしい文化基盤をしっかり持っていたのです。
――そして敗戦した。
結果、戦後まもない日本では・・・
アメリカ軍がもたらすアメリカ文化
大陸から帰還した日本人、台湾などからの移住者がもたらす中華文化
日韓併合によって日本にきた在日朝鮮人一世が持ち込んだ朝鮮文化
これら三つの文化が日本文化と共存することになりました。
つまり、戦後の昭和日本は、4文化が共存するという多種多様文化な状態になっていたのです。
おそらく日本歴史上、もっとも文化的差異が多く生じた時代でしょう。
・・・ちょうどこの時代、上記したアメリカの料理の進化と同様のことが日本でも起きてますね。
近年、日本のラーメンが欧米でも人気を博していることを受けて、ラーメンは日本食だなどと恥ずかしいことを言う人がいます。しかし、昭和の時代のラーメンの呼び名はきっぱり「中華そば」です。
戦中、大陸に渡った日本人が中国料理を知って、それを日本でも食べたいと工夫した結果、今のラーメンになったといわれてます。
焼き餃子も同じようなルートで発展しました。
中華文化の中で生まれ、日本で暮らした彼のアイデア力のおかげで、日本は大きな利益を得ることができました。
そして、この時代を知る日本人から、ウォークマンやVHSビデオなど、世界を驚かせる商品が多く生まれました。それらが日本国のブランド力を生み出し、日本を経済大国にしたのですね。
やがてアメリカ兵は去り、
大陸に行った世代は老人となり多くがこの世を去り、
朝鮮人は日本文化で育った二代目以降が増えていき
社会から文化差異は少しずつ、失われていきました。
―――そして、世界に名をはす先進国になった後の、90年代以降の日本はどうでしょう?
豊かな欧米先進国への憧れは高度成長期に普及したテレビ等を通して庶民の間にすみずみまで浸透しました。
(関連記事「戦後の日本人の原風景はアメリカドラマ」)
バブル期以降もそれは続き、仏教、儒教といった日本の伝統的な文化を時代遅れと蔑んでまで、日本人は欧米人に近づこうとしてきました。
おかげで、今の日本では若い人ほど日本の伝統や独自の美学について無知です。
現在、現役で社会で働く人々のほとんどは上から下まで、欧米文化の価値観の後追いのもとに動いています。
今どきの日本人の頭の中は欧米文化のコピーでいっぱい。マスコミで紹介される異国文化も欧米への憧れを促すものが中心・・・これでは文化的差異が生じるのは難しいですね。
バブル期以降、経済的な豊かさを背景に、欧米以外の国々に進出する日本人もとても増えました。
しかし経済的に豊かでない国に対しては、いつも上から目線、施し目線ですね。
貧しい国の文化は劣ったものと考え、好奇心まじりの興味は向けますが、そこから何か知的なものを学ぼうという姿勢は基本的にありません。
未開な地域に住む人々はへりくだり、先進国日本から学ぶべきだ、感謝すべきだと考える姿勢がテレビ番組などからも感じられます。
そんな世界に憧れてほしい「先進国」日本なのに、アイデア力が貧困になり、次第に経済的に行き詰まりつつあること、
発明、発見の分野で決定的な役割を果たしていた時期は過ぎたと、国際的にも思われていることは、前記事である「海外からみた日本人によるアイデア商品」で述べました。
―――イノベーション力が豊かな状態の国は、違った文化を両立させていることが多いようです。
発想力というものは、自分たちが元来もつ文化をしっかり身につけたうえで、違う文化に触れ、その根底にある哲学どうしの差異、ズレを感じたとき、頭にふとわいてくるものなのかもしれませんね。
つまり、違う文化に触れるだけでなく、自分たちの間に元来根付いている伝統的な文化の質が豊かであることも重要なのかもしれません。
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